凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 私と早乙女さんが同時に頭を下げる。すると、橋野店長は出入り口の方向を目で指した。

「今そこで柊矢先生とすれ違ったんだけど、原田(はらだ)美咲(みさき)さんと一緒だったね」

 橋野店長のなにげない一言に、私と早乙女さんは顔を見合わせる。

 原田美咲さん……?

「あの、柊矢先生がご一緒だったお綺麗な方ですか?」

 早乙女さんの質問に、橋野店長がこくりと頷く。

「うん。あの人、柊矢先生の元カノだよ。それで今は亮真先生の婚約者。すごい美人だよね! 美しすぎる女医だとかでメディアで取り上げられたこともあるんだよ」

 ……え?

 情報量が多すぎて、私はフリーズする。

 あの息を飲むほど美しい女性が女医で、柊矢さんの元カノで、亮真先生の婚約者……?

「おふたりが仲悪いのって、まさか原田さんて方が原因なんですか⁉」

 声の抑制を忘れた早乙女さんが橋野店長に詰め寄った。

「そ、そこまではわからないけど。原田美咲さんは大学病院の院長先生の娘さんでね、若月家とは昔から家族ぐるみで仲が良いって話だよ」

 早乙女さんの勢いにタジタジになりながら、噂話に精通した橋野店長が解説する。

「なるほど。親密そうな理由がわかりました」

 探偵さながらに顎に手をやって言った早乙女さんが私をちらりと見た。

「でも今は亮真先生のフィアンセなわけですし。全然気にすることないですよ、松本さん!」

 バシッと背中を叩いて励まされ、勢いで私は体をよろめかせる。

「ごめんなさい松本さん! 私そんなに力強かったですか⁉」
「大丈夫? 松本さん」

 橋野店長が心配そうに手を差し伸べてくれたけど、私は頼りなく笑って両手を振った。

「はい、大丈夫です」
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