凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 私が知らない柊矢さんを、原田さんはたくさん知っている。それは当たり前だし、仕方のないことだ。
 それで落ち込んだり、嫉妬して暗くなる必要なんてないよね。私はこれから少しずつ、柊矢さんを知っていけばいい。

 そう気持ちを立て直せたのは、今日が約束のデートの日だから。
 チュール素材の白いスカートに、春らしい薄いイエロー色のニットを合わせた私は何度も自分の姿を鏡に映す。

「変じゃない、よね」

 独り言を呟きながら鏡の前でくるくる回り、バックスタイルやスカートの揺れを確認する。

 今日は海を眺めてドライブしつつ、映画デートの予定だ。
 ピアスも仕事じゃ付けられない揺れるデザインのパールのものを選び、髪は緩く巻いてふんわり仕上げてみた。

 映画は近頃話題のラブサスペンスを観たいと思ってるんだけど、柊矢さんの意見も聞いてから決めよう。
 シルバーで華奢なデザインの腕時計を確認すると、柊矢さんが迎えに来てくれる時間が迫っていた。

「そろそろ外で待ってようかな」

 玄関に向かおうとしたとき、バッグの中でスマホが鳴った。着信の相手は柊矢さんだ。
 もうアパートの前に着いたのかな、と思って浮かれながら電話に出る。

「もしもし」
「紗衣? 悪い、ほんとごめん」
「えっ……」

 電話越しの柊矢さんの張り詰めた声色で、私は電話の内容を一気に察した。

「これからセミナーに出席することになって。デートはまた今度、必ず埋め合わせするから」

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