凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「紗衣ちゃんね。松本編集長の姪御さんの。いらっしゃい!」

 とても明るい笑顔で迎えられ、私はホッとした。

「オーナーシェフの入瀬(いりせ)です。松本編集長には昔から何度かこの店を新聞で取り上げてもらってて、感謝してるんだ」

 叔父と同じ歳くらいのシェフはにっこりと口ひげを動かす。

「そうなんですか。いつも叔父がお世話になってます」

 深くお辞儀をすると、シェフは目を丸くしてからガハハっと豪快に笑った。

「しっかりした姪御さんだね。今日はうちの自慢のコースをご馳走するよ。さ、こちらにどうぞ」
「ありがとうございます」

 おひとり様でも入りやすい、可愛くてお洒落な店内で二人掛けのテーブル席に案内された。

 料理はパンと南瓜のスープから、サーモンのキッシュと生ハムサラダ、メインの牛肉煮込みと順番に運ばれてくる。

「わぁーすごい、美味しそう!」

 どれも頬が緩んで仕方ないくらい美味しい。
 お酒はあまり得意ではないけれど、シェフおすすめの飲みやすい赤ワインがまた料理に合って美味しくて、どんどん進む。

 叔父の予想通り、まともな食事をするのは久しぶりだった。
 実は前の店舗で私の次にサブ店長になる予定だったスタッフが急遽ご主人の仕事の都合でイタリアに行くため退職し、代わりのスタッフと引き継ぎをするのに手間取ったのだ。

 退職したスタッフは同期で同い年。ご主人は服飾関係の仕事をしている。

 海外赴任なんて羨ましい。幸せそうだったな……。
 
「イタリアかぁ、いいなぁ」

 しかもお洒落なイタリアだし。
 ローマの休日、大好きなんだよね。

 デザートのジェラートを待つ間、有名なシーンを回想しながら呟くと。

「紗衣ちゃん、フランス料理よりイタリアンのほうがお好きだったかい?」

 ちょうどデザートを運んできたシェフに勘違いされてしまった。
 ヤバい、酔ってきたかも。 

「いえいえ! 違います、違うんです」

 私は焦って両手を振った。
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