凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 やっぱり……。
 人の命を救う仕事だもの、柊矢さんほどの名医と呼ばれる医師であっても、セミナーに出て勉強を重ねる必要があるんだ。

「そんな、気にしないでください。お仕事ですから」
「もう準備して待ってただろ? 突然でごめんな」
「いえ、また次の機会で全然大丈夫ですから。頑張ってくださいね」

 暗い声にならないように注意して伝える。

「じゃあまた、あとで連絡する」

 柊矢さんの声と重なって、もうひとり別の人物の声が聞こえた。

「柊矢、早く行くわよ」

 今のって……美咲さんの声?

 スマホを耳に押しあててみるも、電話は切られてしまった。

 不明瞭だったけど、美咲さんの声によく似ていた気がする。医師の美咲さんもそのセミナーに参加していてもなんらおかしくないし、それに。

“柊矢”

 チェリーズカフェで聞いた美咲さんの声が、頭から離れないでいるから間違いないと思う。

「今、一緒にいるんだ……」

 スマホを持つ手から力が抜け、危うく床に落としそうになって私はハッとした。

 一緒にいるのは仕事なんだから、モヤモヤ考えたって仕方ない。

 それよりも、せっかくお気に入りの服を着たし、外は絶好の行楽日和。
 お休みの日をこのままひとりで過ごすのも勿体ないなぁと思い、私は思い立って祖母の家に向かった。

「あら、デートなの?」

 玄関で出迎えてくれた祖母はひと目で見破ってみせた。
 まあ、普段のお休みの日の私のスタイリングといったらデニムにニットの楽ちんなものばかりだから、さすがに祖母も察するか。
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