凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「今日の紗衣、すごく可愛い」
「あっ、りがとう、ごさいます」

 照れるし息が切れているしで、途切れ途切れに私は言った。

「今日はもう会えないと諦めていたので、嬉しいです」

 前髪を直す振りをして、赤く染まっているであろう顔を手で隠して素直に伝えると、柊矢さんは渋い表情になった。

「このあと、また戻らないとダメなんだ」
「あ、そうなんですか……」
「セミナーの参加者でこれから飲もうってなって」

 柊矢さんは気怠げにハンドルに両腕を乗せる。

「そのセミナーって、どういったものなんですか?」
「製薬会社が主催した自社製品を広めるためのセミナーなんだけど、大学時代からお世話になってる教授に誘われて断れなくてね」
「そうなんですか。色々とお忙しいんですね」

 外来や手術のほかに学会や会議、そしてセミナーまであるなんて、ほとんどお休みがないようなものだ。

「その教授の娘が、こないだ一緒にチェリーズコーヒーに行った人なんだ。美咲っていうんだけど」

 心臓がドクンと鳴った。

「お綺麗な方でしたよね! コーヒーを気に入って下さったみたいで」

 不穏な空気になるのが耐えられなくて、私はわざと笑って明るく言う。

「ああ、ちょうど家に来たときに、紗衣からの差し入れを淹れたんだ」
「家って……柊矢さんのお宅にですか?」

 尋問してるみたいで自分が嫌になる。
 柊矢さんを直視できなくて、チラチラと視線を向けた。

「医学書を取りに来たんだ。受け取って、コーヒー飲んですぐ帰ったよ」
「そう、ですか……」
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