凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 私には男性の家に行くのは警戒したほうがいいとアドバイスしてきたのに、柊矢さんはやすやすと女性を家に上げるんだ。
 それだけ信頼している関係性だということかもしれないけれど……。

 心の中に霧がかかったように、息苦しい。

「今日のセミナーも、美咲さんとご一緒ですか?」
「ああ」

 複雑な私の心情になど頓着しない様子で、柊矢さんは平然と頷く。

 大丈夫、だよね。
 だって今はお兄さんの婚約者だって話だし、ふたりは特別な関係じゃないよね。
 ふたりの間にまだ特別な感情があるなら、こんなふうに話してくれたりしないよね、きっと。

 それなのに私の心が晴れないのはたぶん、弱気になってるからだ。

「そういえば今度、開院記念のパーティーがあるそうですね!」

 私は話題を変えた。
 せっかくわざわざ時間を作って会いに来てくれたのだから、険悪になりたくない。

「噂で聞いた?」

 柊矢さんがいたずらにニヤリと口元を緩めて言う。

「ええ、まあ。柊矢さんも出席されるんですか?」
「ああ、開院五十周年のパーティーだから、一応ね」

 ハンドルを片手で掴んだまま、柊矢さんはグイッと体をこちらに向けた。
 助手席の私に覆い被さる格好で、不意打ちのキス。

「っん……!」

 まだ話の途中で、色っぽい雰囲気なんて微塵もなかったのに。車内の酸素が足りなくなるほどの、濃厚な口づけ。

 顔の角度を変えては舌を絡めとるキスに酔いしれて、私は柊矢さんの背中に手を回した。

「これ以上したら、離れがたくなるな」

 唇が離れ、熱い吐息とともに柊矢さんが囁いた。

 私はもうすでに離れがたくて、乾ききらずにまだ柊矢さんの感触が残る唇にそっと手をあてた。

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