凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「うわぁ……」

 そう思っているのは会場内でどうやら私だけではないらしい。
 その証拠に、柊矢さんを目で追っている女性が周囲に数え切れないほど確認できるし、彼女たちからは感嘆のため息が耳に届いた。

「柊矢先生、白衣姿も素敵だけどスーツも堪らないわね!」
「ほんと! 病院でも目の保養になるけど、今夜の姿は目に焼き付けておきたいわ」

 近くに集まっている看護師さんと思われる集団が、黄色い声で話し始めた。

「けど、最近彼女が出来たんじゃないかって噂、知ってる?」
「え、彼女⁉」
「ほら、あそこにいるカフェの……」

 そこで、話し声がフェードアウトした。痛いほどの視線を感じ、全身が岩かと思うくらい固くなる。

「嘘っ、あの地味な店員さん⁉」

 ひとりの女性が声を張り上げた。たぶんわざと私に聞こえるように。

「えー、なんか柊矢先生には釣り合わないわね」
「うんうん、やっぱり柊矢先生の隣は美咲先生くらい花がある女性じゃないと、納得いかないよね」

 悪意のある言葉に心臓がキューッと痛くなって、私は肩を小さくする。

「きっと柊矢先生を狙ってたから悔しいんでしょうね」

 言いながら、早乙女さんが彼女たちを睨むように見た。

「松本さん、気にしないほうがいいですよ! 別にあの人たちを納得させる必要なんてありませんから」
「あ、ありがとうございます……」

 なんとか笑顔を作って見せたけれど、気にしないわけにはいかなかった。

 柊矢さんの元に、美咲さんが駆け寄ったのだ。人混みの中で顔を近づけ合って話す美男美女。誰が見たって、眉目秀麗な柊矢さんには私よりも美咲さんのほうが断然お似合いだ。
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