凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「絵になるなぁ」

 ふたりの姿を目の当たりにした橋野店長が正直な感想を口から漏らす。

「ちょっと、店長!」

 早乙女さんが肘で小突くと、あっ、という表情で私を見た。気を遣わせてしまった……。

 一向に減らないグラスを片手で持ち、空いた手で胸元のパールを撫でる。
 私のせいでせっかくのパーティーの雰囲気が悪くなってる。場違いだし早く帰りたい、とぼんやり思い始めたときだった。

「あの、すみません。チェリーズカフェの店員さんですよね」

 呆然とする私に声をかけてきたのは、驚くことに美咲さんだった。
 美咲さんは光沢のある紺色のセットアップを着用していて、そのシンプルさは美咲さんの美しさを強調していた。

「は、はい……」

 圧倒的な美しさに気圧される。心音が大きくなった。

「私、原田美咲です」
「あ、松本紗衣です……」
「紗衣さん、柊矢と付き合ってるの?」

 突然の質問に、私は及び腰で頷いた。

「は、い」

 緊張で声が掠れる。
 視界の隅に、私と同じく戸惑った表情で立ち尽くす早乙女さんと橋野店長の姿が映った。

 柊矢さんから聞いたのだろうか。それとも、看護師さんたちの噂話を聞いて知ったのかな。

「やっぱりそうなんだ。柊矢ったらなにも話してくれないんだもの、水臭いわ」

 どうやら後者だ。
 美咲さんは長くて艶のある黒髪を揺らして鷹揚に微笑んだ。

「あの人、マメに連絡とかするタイプじゃないから不安にならない? 仕事に夢中になるとほっとかれたりするわよね。ほんと酷いんだから」

 大げさに眉根を寄せ、美咲さんは俯き加減の私を憐れむような表情を作る。

「私、付き合いが長いの。今度ゆっくりお話しましょうね」

 じゃあ、と目の前から立ち去るまで、私は一言も喋れなかった。あまりの迫力に気後れしてしまった。
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