凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「親父には話した。俺、パーティーが終わったらすぐ向こうに戻るから」

 話の内容が重大過ぎて、私が聞いていいものではないと判断し、息を潜めてすぐに立ち去ろうとしたそのとき。

「美咲とはお前が結婚しろよ。昔から仲良かったし、お互い募る思いもあるだろ」

 亮真先生らしき男性の台詞に、私は雷で打たれたような感覚に陥る。

「そもそも結婚の約束は若月家と原田家の話なんだから、俺じゃなくてもいいんだし」

 しばらく沈黙が流れた。

 柊矢さんと、美咲さんが結婚……?

 一刻も早くここから逃げ出したいのに、足が動かない。それどころか呼吸もままならなくて、胸が苦しくなってきた。

「その彼女と、結婚するのか?」

 沈黙を破ったのは柊矢さんだった。低い声には、重みのある響きがあった。

「ああ、もちろんだ」

 亮真先生は当然とでも言うように、潔く言い放つ。

「たしかに、そのほうがいいな……」

 硬質だけれどもどこか諦めを含んだため息混じりの柊矢さんの声に虚を衝かれ、私の心臓が竦んだ。

 早く、バンケットホールまで戻ろう。
 そう自分に言い聞かせるも、ひどく狼狽しているし、気持ちが動転して真っ直ぐ歩くのも精一杯。胸が押し潰されそうに苦しくて痛い。

『たしかに、そのほうがいいな……』 

 聞き間違えなんかじゃない。柊矢さんは紛れもなくそう言った。

 柊矢さんが美咲さんと結婚するってこと、だよね?

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