凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 すると後ろから、ぷっと吹き出す笑い声が聞こえた。振り向くと、背後のテーブル席には男性がひとり座っている。

 私の言葉に笑ったようなタイミングだった。一瞬目が合ったけれども気まずくて、すぐに逸らす。

「苺のジェラートだよ。あと、これもどうぞ」

 ジェラートをテーブルに置いたシェフが一度厨房に戻り、四号くらいのケーキを持って再び戻ってきた。

 苺をふんだんに使った贅沢な生クリームのケーキ。中央にはロウソクが三本立っている。

「松本編集長から今日は紗衣ちゃんの誕生日だって聞いて、焼いたんだ」
「わぁ、ありがとうございます! すっごく嬉しいです」

 豪華なコース料理のほかにまさかケーキまで用意してくれているなんて思いもしなかった。叔父とシェフの優しさに、揺らめくロウソクの炎が滲んで見える。

「お料理も全部美味しかったですし、ケーキまで焼いて下さったなんて。こんなに素敵な誕生日を過ごせて幸せです、私」

 感動しながらケーキを見つめて言うと、シェフは照れくさそうに口を開く。

「喜んでもらえてよかったよ。あ、紗衣ちゃんのおばあちゃん入院中なんだって? 退院したら今度はご家族揃って来てね」
「はい、必ず!」
「あ、そうだ。今夜は柊矢(しゅうや)くんも一緒にどう?」

 シェフが明るい調子で後ろのテーブル席の男性に言った。

 ……柊矢くん? シェフの知り合いかな?

「せっかくの誕生日だし、一緒に祝ってくれる人がいたほうが賑やかで楽しいよね!」

 突然の提案にぽかんとする私。
< 9 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop