凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 逃げるように会場をあとにした開院記念パーティー以来、私は数日間柊矢さんを避けていた。十日ほど、全く連絡を取らないでいる。
 柊矢さんはそれでも平気のようだ。手術が立て込んでいて忙しいのかもしれないけれど。

『あの人、マメに連絡とかするタイプじゃないから不安にならない? 仕事に夢中になるとほっとかれたりするわよね。ほんと酷いんだから』

 なんでもお見通しって感じだった。
 美咲さんは正しいし、私より柊矢さんを知っていて、そしてなによりお似合いだ。

『美咲とはお前が結婚しろよ。昔から仲良かったし、お互い募る思いもあるだろ』

『たしかに、そのほうがいいな……』

 兄弟の会話内容が、頭の中で何度も反芻して止まない。
 柊矢さんと美咲さんは過去にお互い思い合っていて、今でもその思いを胸に秘めているということだよね。

 偶然出会って、日毎に好きになって、幸せだったから。そんな日がこれからも続くと勘違いしてしまってた。本当は、私なんかが割り込む隙なんてないのに……。

 仕事が終わって家に帰ると、ソファに倒れ込む毎日が続いた。体が怠くて仕方ない。
 また悩み過ぎて倒れでもして職場に迷惑をかけるわけにはいかないから、食事と睡眠はしっかり取るよう心がけた。

 ホットミルクを飲んでベッドに入り、スマホが鳴るとドキッとする。
 メッセージが柊矢さんからで、その内容が悲しいものだったら。もしも、美咲さんと結婚すると告げられたら……。

 怖くてたまらない。けど、やがてそのときは訪れる。
 そう考えるだけで勝手に涙がどんどん溢れてきて、柊矢さんと出会ってからの短い日々が映画のワンシーンのように蘇ってきた。フラれるのを待つのは、辛くてとても苦しい。
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