凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 でも、柊矢さんとの出会いは最初から夢みたいな出来事だった。
 ふたりにとっては私のほうがイレギュラーな存在なんだ。いつ目覚めてもおかしくない、夢だったと思うことにしよう。

 そうして朝起きると、体は鉛みたいに重かった。
 トイレに行き、買い置きしている生理用品が目に入り、私はふと気づいた。また、生理が遅れている。

 きっとまた貧血や寝不足で、ホルモンバランスの崩れたかなんかで生理不順になってるだけだ。
 早とちりだとわかってはいながら、私は念の為、薬局で妊娠検査薬を買った。すでに生理が遅れて一週間が過ぎている。

 自宅のトイレで試すときも冷静だった。妊娠してないと確定させるためにやるんだ、と思っていたから。

 だから、妊娠検査薬に青い線が浮かび上がった瞬間、私は時が止まったかのようにしばらく動けなかった。

「うそ……どうしよう……」

 妊娠検査薬を持つ手が震える。なにかの間違いじゃないか、と食い入るように見つめても、結果が変わることはない。

 私、妊娠してる。柊矢さんの赤ちゃんができたんだ……。
 嬉しいと感じるよりも不安のほうが遥かに大きい。

 だけど、不思議と私の心は安定している。
 まず病院に行って、確定したらひとりで産もう。その決意には一抹の迷いもなく、揺るがない。

 私は柊矢さんにメッセージを送った。
 フラれるのを待つ苦しい時間を過ごすよりは、自分から決着をつけたほうが建設的だと割り切った。

 だってもうひとりじゃないんだから。
 周りに迷惑をかけないでお腹の子を守るため、無駄な時間は使いたくないし精神的になるべく穏やかでいたい。
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