凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 翌日、仕事をしながら私は頭の中でスケジュールを組んでいた。まずはクリニックを予約しなければ。

 受診してもしも妊娠が確定したら、お腹が目立ってくるまでには退職しなきゃならない。どのくらいで大きくなるんだろう?私には未知の世界だ。

 退職して、柊矢さんとは二度と会わないで済む場所に引っ越そう。出産する病院と、家と仕事を探さなくちゃ。やることがいっぱいだ。

 恐らくひとりで産み育てるのは、私が想像しているより何倍も大変なことが多いだろう。
 祖母に相談して、喜んではくれないかもしれないけど、反対されても気持ちは変わらないと伝えよう。

『生きてるうちにひ孫の顔が見れそうだからね、そのお礼よ』

 喜んでくるよね、きっと……。

 考えていたら、営業時間はあっという間に過ぎた。
 今日は柊矢さんが来店されなかったので、私はホッとした。昨日メッセージを送信してから何度も着信があったけど、無視している。
 だから今日来店されるのではないかと身構えていたので、閉店してから私は胸を撫で下ろした。

「松本さん」

 職員専用口から外に出たところで、橋野店長が後ろから追って来た。

「橋野店長、お疲れ様です」
「お疲れ様」

 息を切らした橋野店長は、私の前で肩を上下させる。

「橋野店長、お急ぎでどうしたんですか? 今日は残って週間売上報告書を作成するんじゃ……?」
「ああ、明日にする。それより、松本さん。柊矢先生と喧嘩でもした?」
「え?」

 正面から探るように見つめられ、私は反射的に一歩後退した。

「開院記念パーティー以来、松本さん元気がないなと思ってね」

 ポリッと頭を掻いた橋野店長は、目線を落とした。
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