凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
 もしかして、噂話に精通している橋野店長のことだから、亮真先生が海外に戻る件や美咲さんが柊矢さんと結婚する話を知っているのかな……?

「あの、大丈夫です。ご心配ありがとうございます」

 どこまで知られているかわからないので、大事にならないよう警戒しながら、私はさらりと言って頭を下げた。

「そう? もしもひとりで悩んだり、なにか辛い思いをしてるなら、僕が話しくらい聞くよ?」

 ズンと間合いを詰められて、私は体を仰け反らせる。

「いえ! 全然大丈夫です!」
「でも店長として気になるんだよ。柊矢先生は人気もあるし、正直松本さんとは全然立場が違う人間だろ? 悩みも多いんじゃないかと思って」

 私が距離を取ろうと身を引くと、その動きに比例して橋野店長は距離を詰めてくる。

「開院記念パーティーで陰口言われて嫌な思いしただろうし。これからもああいうことがあると思うと心配でさ」

 滑らかな口調で橋野店長は続けた。

「今後もしもまた嫌な思いをするようだったら、僕を頼っていいんだよ? 僕が松本さんを支えるし、力になるから」
「いえ、あの、私は大丈夫ですから……」

 デジャヴな状況にうんざりして、私はため息を吐く。
 以前にもここで橋野店長に強引に誘われて、困っていた私を偶然柊矢さんが助けてくれたんだ。

「お疲れ様」

 そう、ちょうどこんなふうなタイミングで。

「離れてもらえませんか。彼女を支えるのは俺の役目なんで」

 憮然とした声に驚いたのも束の間、真横に現れた黒い影が私の腕をグイッと引いて、橋野店長から引き離した。

 呆然としながら私は刻むようなぎこちない動きで声の主を見上げた。
 渋面を作る柊矢さんを前に、橋野店長は目をむく。
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