凄腕ドクターの子を妊娠したら、溢れるほどの愛で甘やかされています
「お仕事がお忙しいのは理解してます」
「だったらどうして」

 言下に言い、柊矢さんは私の腕を掴んだ。

 どうして、って……。
 自分の胸に手をあててみてほしいけれど、この状況って柊矢さんにとっては特に問題ないのかもしれない。
 私への気持ちには偽りはなく、他の女性と結婚しても関係を続けていくつもりとか言うのかもしれない。

 だとしても、私には無理だ。
 誰にも祝福されないで、後ろめたさを感じて付き合いを続けるなんて。

 そんな関係、誰も幸せになれない。

「紗衣」

 病院内から来た職員が、私たちをジロジロ見て通り過ぎる。

「あの、ここじゃちょっと」

 周りを見て移動しようとした私を、柊矢さんは怪訝な表情で見た。

「逃さない」

 声には怯むくらいの圧があり、腕を掴む力も先ほどより強くなった。

「紗衣の気持ちを聞くまで離さない」
「っ……」

 柊矢さんは真剣な表情で戸惑う私を見つめ続ける。

「俺のこと嫌いになった? 直してほしいところがあったら言って」

 柔らかい声で穏やかに言い、今にも泣き出しそうな私の顔を窺った。

「な、ないです、違うんです」

 私は小さく首を振る。

「それなら、どうしてなんだ?」

 幼い子どもに言うような優しい口調に胸をきゅんと掴まれて、私は両手を強く握り締める。

「だって……。柊矢さんには美咲さんがいるじゃないですか。美咲さんと結婚するんですよね?」

 耐えきれなくて、私はついに本音を吐き出した。

「私、おふたりの仲を邪魔したくないです……」

 柊矢さんには迷惑をかけたくないから、お腹の中はひっそりと内緒で産もうと決めたんだ。
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