あの夜を閉じ込めて
「ち、違います……とは言えないかもしれないけど、なんていうか冬夜さんは私の推しなんです」
「推し? アイドルとかにするやつ?」
「そうです。勝手に応援してるといいますか、冬夜さんの作品もできれば全国の人に勧めたいくらい気持ちがあふれていまして……」
「そう思ってくれるのは嬉しいけど、推しってあんまり嬉しくないかも」
「え、嬉しくないんですか? というかあれ、さっきから敬語じゃなくなってるような……」
「あーなんかもういいかなって。ダメ?」
「ダ、ダメじゃないです! 冬夜さんが話したいように話してください」
「うん、じゃあ、そうする」
彼が笑ってくれると、感情が高まって胸が苦しくなる。
これがときめきというやつなんだろうか。こんな気持ちはいつ以来かな。頭の中では、冬のラブソングが流れている。
もう大人なのに、まるで学生時代に覚えた初恋のよう。くすぐったくて、落ち着かなくて、どうしようもない。
「と、冬夜さん、私、その……って、冷たいっ!」
言いかけた唇が止まる。なぜなら彼がスコップですくった雪が私の顔面にかかったからだ。
「……あ、ごめん。投げる方向、間違えた」
ただでさえ雪まみれなのに、冬夜さんのせいでコートの中まで雪が入ってしまった。
「だったら、私もやり返します!」
「は、なんで、おい!」
「ふっ、はは、冬夜さんの髪がさらに白くなりました」
「……このっ」
大人だってはしゃぎたい。大人になっても、下らないことで笑いたい。私たちはまるで子供に戻ったみたいに、雪を投げ合った。