あの夜を閉じ込めて
二十六歳、派遣OL。五つ年上の彼とは仕事を通じて出会った。交際期間は二年。同棲を経て、お互い自然と結婚を意識し始めた。
それから両家の親にも挨拶を済ませ、式場も決めた。入籍や式の日取りを決めて、勤め先にも報告。あとは費用や衣装の相談。結婚式に招待するゲストをピックアップして、少しずつ当日に向けての準備を進めていた。
順調だった。あとは幸せになるだけだった。
彼が大学時代の元カノと縁が切れていなかったことを知ったのは、結婚が取り止めになったあとのこと。
彼は私を捨てて今はその彼女と付き合っている。浮気された挙げ句に、婚約破棄された私は、当然結婚すると報告した会社にも居づらくなって辞めてしまった。私の花嫁姿を楽しみにしていた両親には……まだダメになったことは言えていない。
「……人生、うまくいかないものね」
バスの窓から流れていく景色を見ながら、ぽつりと呟く。
新婚旅行から傷心旅行に変わった函館の旅。
傷ついた心を癒せれば、行き先はどこでもよかった。でも、私はあえて彼と来るはずだった場所を選んだ。悲しさと同じくらいに悔しさもあるからだ。こんなことでは、負けない。こんなことくらいで、へこたれない。
ひとりの函館だって、楽しんでやるんだから……!