冬の夜、君と2人で。
第5章
2人で行く当てなどなく。
だけど、このまま別れるのは、後味が悪すぎる。
結局、ふたりで夕方の公園に向かった。
2人きりの公園で、ベンチに座り込む。
冬夜くんの方をちらっと見ると、冬夜くんと目が合った。
私は驚いて瞬きを繰り返す。
「弥生はさ、」
そう話を切り出してきた冬夜くんに、私は耳を傾ける。
「弥生は昔から、そういう……誰にも言わずに抱えるじゃん。だからさ、怖いんだよ」
冬夜くんが、怖い……?
「……弥生が、僕の知らないところに行ってしまう気がして」
冬夜くんの、知らないところ……?
「最近はさ、僕自身だって、大学が忙しくてあんまり会えてなかったからさ。すごく、寂しかった」
私は、「うん」と、相づちをする。
「僕だって、学校では、常に樋渡家の看板を背負って生きてるから、いつだって気が抜けないし、樋渡家として、家の顔に泥を塗るような真似は出来ない」
確かに、そういうことに関しては、きっと冬夜くんの方が大変なのだろう。
ただでさえ、冬夜くん兄妹の親は厳しい人たちだ。
親戚に値する私でも、話すときは緊張してしまう。
悪い人ではないんだけどね。
「そっかぁ……。そうだよねぇ……」
冬夜くんは一息吸って、
「でも、それを運命だって受け入れられるようにしたら、楽にはなったかな」
運、命……?
「自分の宿命というか、責務というか。確かにそれで大変なこともあるけど、樋渡冬夜として生まれてなかったら、今の妹たちに会えてなかったしたしね」
最後は少し重く、だけど、最後は明るい声でそう言った。
「本当に冬夜くん妹ちゃんたちの事好きだよね」
私がそう言って思わず笑ってしまうと、
「うん」
と、幸せを噛み締めるように言った冬夜くん。
こんなに思って貰えて、妹ちゃんたち幸せだよなぁ。
横顔で微笑んでいる冬夜くんが、あまりにもかっこよすぎて。
両想いになれたら、隣に並んで、私も一緒に笑えるのだろうか。
ついその画を想像してしまい、顔がポポっと紅くなるのを自分でも感じる。
恥ずかしくなって思わず顔を背けてしまう。
「えっ、弥生どうかしたっ?」
冬夜くんが驚いたような声を出すけど、顔を背けていてどんな表情をしているのかが分からない。
「なっ、なんでもないっ!」
声がめちゃくちゃ恥ずかしいくらいに上ずっていて、「そうだよ」と言っているのと同じだ。
はぁぁぁ自分なにやってんの! いかにも怪しさ満載じゃん!
それでよけいにあわてふためいてしまった。
「弥生、とりあえず落ち着こう?」
冬夜くんに諭されて、深呼吸をして落ち着かせる。
「うっ……、ごめんなさいっ……」
お陰で落ち着いたけれど、今度は後悔の波が襲ってくる。
好きな人の前で、自分はなんて事をしてしまったのだろう……。
そんな私に冬夜くんは
「なにがあったのかは分からないけど大丈夫だよ」
そう言って、優しく微笑んでくれる。
それでも私が申し訳なさそうにしていると、
「じゃあさ、弥生。一つ聞いていい?」
私だけがギリギリ聞こえるくらいの声量で、冬夜くんは呟いた。
「う、うん。なに?」
私が緊張して返す。
冬夜くんは、深呼吸をしてから、こう言った。
「弥生ってさ、好きな人いるの?」
それを聞いて、叫ぶのを抑えることは出来たけど、顔の火照りは止まらなかった。
目の前に居る冬夜くんです、なんて言える訳がない。
けれども、私の反応は誰が見ても「Yes」と言っているようにしか見えないだろう。
冬夜くんに、私が他に好きな人が居るという勘違いはして欲しくない。