大学教授と学生の恋の行方は‥
■第1話 医大生 大槻順子
大槻順子は、今年医学部の1年生として大学に入学をしてきた。
彼女の両親はともに医師をしており、順子は自然と医師を目指すようになった。
とくに母親からも、父親からも強制はされていない。
ただ生まれた時から、医学が身近にあったので、この道に進む以外のものを見出すことができなかった。
それに、父親は純子が中学生の頃に亡くなっていることも大きい。
ちょうど思春期に入った頃で、
「お父さんの着ているものと一緒に洗濯しないでよ」
というようなことを言っていた。
父親との最後の朝は、
「順子、車に気をつけて学校に行ってくるんだぞ」
「子どもじゃないんだから、そんなこと言われなくてもわかってる」
そう言って、父親の顔も見ずに家を飛び出した。
それがいつものことだったからだ。
父親の顔を見て「行ってきます」なんて言葉は、中学に入ってからは言ったことがない。
思春期の女子と父親の関係など、そういうものだ。
だが、順子は今もその日の朝のことを後悔している。
何せその夜に、順子の父親は亡くなったのだから。
死因は交通事故。
終電間際の時間帯に帰ってきている途中、飲酒運転をした車にはねられてしまったのだ。
車に気をつけてと言った本人が、車にひかれて亡くなってしまうとは、何の因果かとも思うが、現実はそんなものである。
順子の父親は、38歳という若さで亡くなったが、いわゆる名医だった。
すでに准教授になっており、いずれは教授、そして主任教授にもなれるのではないかと言われていたぐらいだ。
職場結婚だった順子の母親も、突然失った夫に対して嘆き悲しんだ。
だが、まだ中学1年生の順子がいるので、1人でも育て上げると一念発起し、医師の道を究めていく。
おかげで順子の母親は、当時の女性としては珍しく早い昇進をし、金銭的には苦労はしなかった。
ただ仕事が忙しかったので、順子との時間は少なくはなっていたが、順子も母親の気持ちもわかるし、父親への後悔もあるため、ぐれることもなく真っ直ぐに育ったのだった。
そんな過去を持つ順子が医学部に来たのも、当然の流れだろう。
そして、そこではるかに年上の宮本主任教授に恋をしてしまうのも、仕方がないのかもしれない……。
宮本主任教授は、大学病院医師のため、仕事の1つに医学生の講義をするというものがある。
それは主任教授になっても変わらない。
宮本主任教授自身も、講義をすることに対して面倒だとか、したくないという気持ちはなかった。
医学の道を進もうとしている若者たちとの触れ合いは刺激になるし、自分の教え子がいずれ大学病院にとって重要な人材になってくれれば、さらに嬉しいことはない。
医学生の1年生は、まだまだ高校を卒業して間もないため、子どもっぽさが残っている。
本人たちは大学生なのだから、もう大人だと思っているのかもしれないが、まだまだ甘いところがあり、そこがまた可愛いところでもあると宮本主任教授は思っていた。
というより、その傾向は、自分が年を重ねる度に強くなっているような気もしていた。
宮本主任教授は結婚をしていないので、子どもがいない。
だから医大生たちを、ある意味自分の子どもの様な目線で見ているのかもしれないと、自己分析していた。
だが、その中でも、今年の1年生には熱心な生徒がいる。
それは大槻順子だ。
講義の終わった後だけではなく、講義のない日にも宮本主任教授の部屋まで訪ねてくるのだ。
彼女の質問は、どれも若者らしい視点での質問だが、宮本主任教授自身も見落としていた部分もあるようなことを聞いてくるときもある。
だから彼女からの質問が、楽しみになっている自分もいた。
とはいえ、彼女は自分のところに来すぎなのではないだろうか……という懸念も最近は少し思い始めていた。
大槻順子は、今年医学部の1年生として大学に入学をしてきた。
彼女の両親はともに医師をしており、順子は自然と医師を目指すようになった。
とくに母親からも、父親からも強制はされていない。
ただ生まれた時から、医学が身近にあったので、この道に進む以外のものを見出すことができなかった。
それに、父親は純子が中学生の頃に亡くなっていることも大きい。
ちょうど思春期に入った頃で、
「お父さんの着ているものと一緒に洗濯しないでよ」
というようなことを言っていた。
父親との最後の朝は、
「順子、車に気をつけて学校に行ってくるんだぞ」
「子どもじゃないんだから、そんなこと言われなくてもわかってる」
そう言って、父親の顔も見ずに家を飛び出した。
それがいつものことだったからだ。
父親の顔を見て「行ってきます」なんて言葉は、中学に入ってからは言ったことがない。
思春期の女子と父親の関係など、そういうものだ。
だが、順子は今もその日の朝のことを後悔している。
何せその夜に、順子の父親は亡くなったのだから。
死因は交通事故。
終電間際の時間帯に帰ってきている途中、飲酒運転をした車にはねられてしまったのだ。
車に気をつけてと言った本人が、車にひかれて亡くなってしまうとは、何の因果かとも思うが、現実はそんなものである。
順子の父親は、38歳という若さで亡くなったが、いわゆる名医だった。
すでに准教授になっており、いずれは教授、そして主任教授にもなれるのではないかと言われていたぐらいだ。
職場結婚だった順子の母親も、突然失った夫に対して嘆き悲しんだ。
だが、まだ中学1年生の順子がいるので、1人でも育て上げると一念発起し、医師の道を究めていく。
おかげで順子の母親は、当時の女性としては珍しく早い昇進をし、金銭的には苦労はしなかった。
ただ仕事が忙しかったので、順子との時間は少なくはなっていたが、順子も母親の気持ちもわかるし、父親への後悔もあるため、ぐれることもなく真っ直ぐに育ったのだった。
そんな過去を持つ順子が医学部に来たのも、当然の流れだろう。
そして、そこではるかに年上の宮本主任教授に恋をしてしまうのも、仕方がないのかもしれない……。
宮本主任教授は、大学病院医師のため、仕事の1つに医学生の講義をするというものがある。
それは主任教授になっても変わらない。
宮本主任教授自身も、講義をすることに対して面倒だとか、したくないという気持ちはなかった。
医学の道を進もうとしている若者たちとの触れ合いは刺激になるし、自分の教え子がいずれ大学病院にとって重要な人材になってくれれば、さらに嬉しいことはない。
医学生の1年生は、まだまだ高校を卒業して間もないため、子どもっぽさが残っている。
本人たちは大学生なのだから、もう大人だと思っているのかもしれないが、まだまだ甘いところがあり、そこがまた可愛いところでもあると宮本主任教授は思っていた。
というより、その傾向は、自分が年を重ねる度に強くなっているような気もしていた。
宮本主任教授は結婚をしていないので、子どもがいない。
だから医大生たちを、ある意味自分の子どもの様な目線で見ているのかもしれないと、自己分析していた。
だが、その中でも、今年の1年生には熱心な生徒がいる。
それは大槻順子だ。
講義の終わった後だけではなく、講義のない日にも宮本主任教授の部屋まで訪ねてくるのだ。
彼女の質問は、どれも若者らしい視点での質問だが、宮本主任教授自身も見落としていた部分もあるようなことを聞いてくるときもある。
だから彼女からの質問が、楽しみになっている自分もいた。
とはいえ、彼女は自分のところに来すぎなのではないだろうか……という懸念も最近は少し思い始めていた。