大学教授と学生の恋の行方は‥
■第5話 2人のおだやかな交際を及ぼす影
2人は付き合い始めたものの順子が未成年だったので、大学では誰にも伝えていない。それにまた悪い噂が流れるといけないので、大学にいる時は順子には主任教授室には来ないように宮本主任教授は伝えていた。順子もそれを理解し、承諾した。

そして2人が付き合い始めて1年が過ぎ、順子は二十歳になり、2か月が過ぎた。
宮本主任教授は理事会に彼女と付き合っていることを報告。順子も大学では、宮本主任教授にはそれほどベタベタしないようにはしていたものの、見る人が見れば付き合っていることがわかるほどの距離で、大学内でも接するようになった。

とはいえ、2人がデートをする場所は、もっぱら宮本主任教授の家だ。
宮本主任教授が休みの時に、順子が彼の家に遊びに行っていた。宮本主任教授の家は、山の上にある民家。ここには、他の民家は少ないため、誰かに見られる心配もない。この家で、彼は老犬と過ごしていたのだが、順子と付き合うようになってからは、2人と1匹暮らしになった。
家の中ですることといえば、本を読んだり、一緒に料理を作ったりするぐらいだ。とても健全なお付き合いを2人はしていた。
2人には共通点があり、どちらも読書が好きだったので、一緒にいるのに全く会話しない時間も長い。だけど、1人で読んでいるよりは、傍にもう1人いることがとても心地よかった。

大学病院ではというと、

「宮本主任教授ってさ、最近ずっとお弁当だよな」
「例の彼女の手作りらしいぜ」
「あぁ、学生の子な。だったら、一緒に食べればいいのに」
「大学病院内では一緒に食べないのが、あの2人らしいんじゃないか」
「なるほど。応援したくなる関係だな」
「あぁ」

主任外科医局の消化器外科の医師たちは宮本主任教授を慕って入局する者ばかりだったので、彼の籠絡の恋には見て見ぬふりばかりか味方するものも多かった。

そして、さらに3年が過ぎ、順子は医学部4年生になった。
宮本主任教授と順子の間柄は、今や誰もが知る関係となっている。2人のことを応援する者が多いのは、宮本主任教授のこれまでの功績と、2人が所かまわずイチャイチャするのではなく、老いらくの恋のように緩やかな関係性に見えたからだろう。

だがそんな中、2人の恋に敵意をむき出す者が現れた。消化器内科主任教授の土島である。彼女は女性でありながら、消化器内科主任教授になった珍しい人材だ。だからこそ周りからも、女を捨てた医者だとも揶揄されている。そんな彼女も医学部の学生を教える講師だ。他の生徒への指導も厳しいが、特に順子に対しては当たりが強かった。目の敵にされていると言ってもいい。講義中に名指しで立たされ、叱咤されるのだから。順子は、どうしてここまで厳しく指導されるのかがわからなかった。

だがそれは、病院のあるパーティで知ることになる。

そのパーティは、大学病院の医師も医学生も一緒に参加するような内輪のパーティだ。ホテルを借り、みんなで立食するスタイルのものである。
順子はシャンパングラスを片手に、宮本主任教授の姿を探した。オフィシャルな場でも2人でいることが許される仲になっていたからだ。
< 6 / 16 >

この作品をシェア

pagetop