大学教授と学生の恋の行方は‥
■第6話 喧嘩
順子が宮本主任教授を探していると、いつも目の敵にしてくる土島主任教授が、宮本主任教授と談笑していた。

「え……」

順子は自分の目を疑った。宮本主任教授は人当たりのいい人のため、周りからの人望はある。だが、特別に誰かと楽しそうに話をしたりはしない。順子以外とは。つまり、宮本主任教授は特別に思っている人とだけ、あんな風に談笑するのだ。

「宮本主任教授!」

順子は気が付くと、宮本主任教授の名前を呼んでいた。宮本主任教授と土島主任教授が同時に順子を見る。2人の行動は、どこか似ているようにも思い、それが順子は嫌だった。

「大槻君。どうしたんだい、そんなに大声を出して珍しい」
「大槻さん。場をわきまえなさい」
「土島主任教授、まぁまぁ、ここは私に任せて」
「宮本主任教授!」

順子はまた向き合って話をしようとする2人を止めたくて、宮本主任教授の腕をつかんだ。

「大槻君?」

順子は宮本主任教授を真っすぐに見つめる。だが、宮本主任教授には、順子がどうしたいのか、何を訴えようとしているのかがわからなかった。ただ、いつもの順子とは違うということだけはわかる。焦っているような、怒っているような、そんな印象があった。

「宮本主任教授、お話があります。あちらの方へ行きませんか?」
「ちょっと待ちなさい!」

宮本主任教授がついていこうとすると、土島主任教授が声を荒げた。

「大槻さん、それはあまりに失礼ですよ。今、宮本主任教授とは私が話をしていたのです。学生の分際で宮本主任教授に馴れ馴れしいのも気になりますね。ここはオフィシャルな場なのですよ?」
「わかっています。ですが今は講義中ではありません。私は宮本主任教授とお話がしたいのです」
「いいえ、わかっていません。宮本主任教授は私と話をしていると言っているのです。あなたは日本語を理解できていないようですね」
「土島主任教授こそ、私の話を聞いていません」

順子も土島主任教授も一歩も引かず、お互いに宮本主任教授の腕をそれぞれ掴む。

「2人とも、いったいどうしたんだ。ちょっとまず落ち着いて……」
「宮本主任教授も、若い子に甘いから、こういう子がつけあがるんですよ。分別も何もついていないようですし」
「分別ならついています! でも私は、宮本主任教授の――!」

順子は、そこでハッとする。いつの間にか周りに人が集まってきていたからだ。みんながヒソヒソと言いながら、3人を見ている。
そして、当の宮本主任教授も悲しそうな顔をしていた。
その瞬間順子は、自分がしでかしてしまったことに気づく。

「私……」

順子は、宮本主任教授の腕を離すと、その場を走り去った。

「大槻君!」
「いいじゃないですか、ようやく自分のことが分かったんです。放っておいたらいいんですよ。それに、宮本主任教授も、これでわかったでしょう。彼女がどれほど未熟な存在か」
「……」

宮本主任教授は、ギュっと自分の手を強く握りしめた。

その日の夜。
宮本主任教授は順子に電話をかけ、別れを告げる。
順子はその提案を受け入れるしかなかった。
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