溺愛体質の先輩が甘くするのは私だけ。
いまはなんだか、この空気と最近の様子と、話の内容とで、一気に色々なことが起きすぎていて苦しい。


「うん。小さい頃、勉強が嫌で屋敷をこっそり抜け出したんだ。とにかく走って、屋敷から抜け出して。力がなくなって、倒れて転んだ時に、その女の子が僕のことを助けてくれたんだ」

「っ……」


なんだ、いまのっ……。


『ありがとう』

って……知らないはずの、記憶にないはずの映像が頭の中に流れた。


それは、先輩に似たあの男の子が、怪我をしている様子で。


けど、やっぱり私の勝手な理想だと思うから……。


「そうなんですね」

「うん」


……先輩は、なんだか嬉しそうにも切ないように微笑んだ。


「僕は、ずっとその子に会いたかったんだ」

「……え……?」

「それで、出会うことができた」


私のことを見つめながらそう言う先輩。


なんで、私を見るの……?


「……その人のこと、いまでも想い続けてるんですね」

「うん」


はっきりと言われたその言葉。


ああ……。

だめだ、もう先輩の側にいることはできない。


なんだか、出てきたあの映像からして、もしかしたら私がその女の子かもしれない。

なんて一瞬思ったけれど、そんなことは伝えられない。


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