仮面王子とのメモワール
「……なんで、いまさら」
ぽつりと呟いたその言葉は、誰にも聞かれず溶けていった。
────ガラッ。
「っ!?」
保健室のドアが急に開いたのは、それから数秒後。
体を起こしてその場に目を向けると、自分でも驚くくらいピシッと体が固まった。
さらに心臓の音が加速する。
「変わったな。───唄」
そこには、いまさっきやってきた転校生。
「……っ、律」
無意識にその名前が口に出て、ハッとした。
けれどそんな私の言葉を聞き逃すはずもなく、彼は口角を上げてクスリと笑う。
なんで。どうして。
そればかりがぐるぐると頭を巡っているのに、一歩、また一歩と近づいてくる律紀から目がそらせない。
「唄」
そして、あのときと同じその声で、私の名前を呼んだ。