仮面王子とのメモワール


………。


"だった"か。



その言葉だけがやけに耳にはっきり届いた。


無意識に拳を握りしめているのに気付いたのは、そんなとき。


あんな別れ方しておいて、そんな言い方ってないよ。

わかってた。わかってた、けど。



「……勝手にいなくなったくせに」

ポツリと、本音が漏れた。



中3の夏休み。

彼は、何も言わずに消えた。


たった1枚、
たった1行だけの手紙を私に残して。



あなたのせいで、私はずっと前に進めずにいたのに。


ずっと言いたくても言えなかった言葉たちが溢れて、なんとかそれをせき止める。


寂しかった、なんて可愛い時期はとっくに終わった。



いまはただただ、忘れたい。


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