仮面王子とのメモワール


少し埃が舞う。


中から出てきたそれに、思わず息を呑んだ。



宛先も切手もない、少し色褪せてヨレた無地の手紙。


律紀がいなくなったと知ったその日に、うちのポストに入っていたものだ。



1年間、何度も何度も読み返しては泣いた。

そしてそこから1年、たったの一度も読まずに仕舞い込んできた。



手紙の内容はいやでも覚えている。

だって忘れようがないくらい、シンプルすぎるものだったから。


ゆっくりと、私は手紙を開いた。


目に飛び込んできたそのたった1行に、1年ぶりに胸が締め付けられる。


でも、もう涙は出ない。



「……ほんと、いつ見ても残酷」





"別れよう。"




たった1行。たった、4文字。

男の子にしては綺麗で整った字が、余計に虚しく思えた。


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