仮面王子とのメモワール
「例のその親友ね、今はもう前を向いてるの。ボロボロにまでなった過去を振り切って新しく進んでるの。だから、邪魔しないでね」
「………」
誰の話か、なんて、名前は一切出ていない。
でも、通じている。この3人の間でだけは。
律紀は何も言わなかった。
すぐに先生が教室に入ってきて、何事もなかったかのように授業が始まった。
チラッと隣を見ても、横顔だけでは彼が何をどう考えてるのかはわからない。
……律紀は、この2年何をやっていたんだろう。
本は、変わらず読んでいたのかな。
さっきの図書室での出来事を思い出して、なんとなくそんなことを思う。
……そんな、線引きしなくたっていいのにね。
そういうところも、全然変わってない。
「……ばーか」
聞こえるか聞こえないかくらいの小声で、文句を言ってみた。
僅かに揺れたような気がしたその肩は、そのまま真っ直ぐに黒板に向いていた。