仮面王子とのメモワール


「じゃあ、私たちはあっちでやるから」

「うん、頑張ってね」


たぶん、嫌味を言い合って数分くらい。 

お互い埒があかないと察したのか、ニコリと笑い合ってその場を離れた。


手にあるのは、悔しいけど9ポンドのボーリングの球。


「唄、大丈夫?」

「あー……うん、ちょっとカッとしちゃって」


あは、と笑ってはみたものの、それが本音じゃないことくらいたぶん未央にはバレている。



……すごく、久しぶりな気がした。素の律紀と話をしたのが。

もちろん表面上は取り繕ってはいたけれど。


あぁ、もう、やだな。

律紀と普通に話せたことに、嬉しく思ってしまう自分がいる。


あんなやつ、別に話せなくたって関係ないと思っていたのに。


あの日以来、律紀との関わりがないことに寂しく思っている自分がいたなんて絶対に認めたくなかった。

< 70 / 87 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop