仮面王子とのメモワール
彼女からよく思われていないのは承知の上だ。
でもそれがわかっていても、いま優先するのは目の前のコイツ。
「……樋山、帰るよ」
「ちょっ、おい!古河!」
古河は抵抗する樋山の腕を無理やり引っ張って、出口の方へと向かって行った。
ここまでの俺たちの会話が聞こえていないであろう唄が、「えっ」と声を漏らす。
そして初めて俺の方を振り返ると、「未央に何言ったの」と不機嫌そうに聞いてきた。
おいおい、助けてもらっといてその態度かよ。
ほんっと、可愛くねぇ女。
どうせ何言っても、そのヘッドホンから大音量の音楽が流れているかぎり聞こえるわけがない。
というか、聞こえられたらヘッドホンの意味がない。
とりあえず「バカ」と言うと、それだけは口の動きで読み取れたのかキッと睨んできた。
それが可笑しくてつい笑うと、また睨まれる。