仮面王子とのメモワール
といってもここはボーリング場。
落ち着ける場所なんてたかが知れていて、着いたのは建物の一番奥にある自販機横のベンチだった。
唯一助かったのは、ボーリングエリアから離れているせいか全く人がいないことくらい。
カチャリとヘッドホンを外してやると、未だにムスッとした様子の唄が俺を見上げた。
「お前なぁ、助けてもらっといてその態度はなんなんだよ」
「……別に、助けてなんて言ってない」
「嘘つけ。俺来てホッとしたくせに」
「なっ……!」
図星だったのか、唄は再びキッと俺を睨んだあとで、少し気まずそうに視線を逸らす。
ったく、やっぱり変わってねぇな。
そのまま彼女をベンチへ座らせると、財布から小銭を出して自販機に突っ込んだ。
ガコン。
「ほら」
考えるまでもなく勝手に選んだのは、ストレートティー。
そのチョイスに少し目を見開いていたけれど、唄は小さい声でお礼を言いながらそれを手に取った。