先輩からの卒業


先輩が退院後も私から罪の意識が消えることはなかった。

ただ、先輩が謝罪の言葉を望まないことはもう十分わかっていて、いつの間にか私達はお互いに事故のことを口にしなくなっていた。

なのに、なぜ今その話を始めるのだろう。


「奈子。俺のことは気にしなくていいから、あの事故は奈子のせいじゃない」


「…………」


「もう奈子の辛そうな顔は見たくないんだ」


「別に私は、」



「浪川となら笑えるんじゃないか?」


今は私と先輩の話をしていたのに、どうしてここに浪川くんが出てくるのだろう。


“浪川となら”って……。


「何が言いたいんですか。まさか浪川くんと付き合えって?」

「それで奈子が幸せになるなら俺はいいと思うよ。もう、罪の意識なんて背負わなくていいから奈子は自分のことだけ考えて」


「そんな……、」

言いたいことは山ほどあるのに、何から口にしていいのかわからず言葉に詰まる。

私の幸せ?私は私のことだけ考えればいいって……。

どうしていつも他人のことばかり。

それとも、私の幸せを願わなければならないほど、私は先輩の前で苦しい顔をしていたのだろうか?






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