先輩からの卒業
「俺にまでその胡散臭い笑い方するのやめてもらえる?」
そう言った浪川くんの表情はどこか冷めていて、私の心の中全てを見透かすような鋭い視線だった。
それに耐えられず、パッと視線を自動販売機の方へと逸らす。
そして、適当に目に止まったジュースのボタンを押し「……胡散臭いって酷いな」と言いながら笑った。
「ほら、また笑った。前も無理に笑ってる時あったけど、その時より酷いな。まだ前のがマシ」
「そんなことないよ。先輩とも前みたいな関係に戻れたし」
「じゃあ、三宅先輩は古谷のこと何も見えてないんだな」
その言葉に思わず顔を上げる。
「先輩のこと悪く言わないで」
いくら浪川くんでも先輩を悪く言うのは許さない。
先輩はわざと気づかず、関係を修復しようとしてくれているのに。
「……泣くほど好きなのかよ」
「え?」
浪川くんがそう言葉にするまで自分が涙を流していることに気づかなかった。
私は涙腺までバカになったのだろうか。
「これ使って」
財布とジュースしか持っていない私に浪川くんがハンカチを差し出してくれる。
「ごめん、ありがとう」
それを受け取ろうとした時、
「お前も泣かせてたら意味ねぇだろ」
伸ばしかけていた手はそんな言葉と同時に力強く掴まれた。
「え?」
そのまま強引に私の手を引き歩くから、私も頭より先に体が動く。