ABYSS〜First Love〜
リオ
sideA-1
あの夏、オレは初めて知った。
世の中には好きになっちゃいけないヤツがいるんだと。
その世界は蒼くて、甘くて、
そしてまるで深海のように真っ暗だった。
だけどオレはアイツしか見えなくて
他には何も要らないと思ったんだ。
ユキナリとの出逢いは
眩しい朝の海だった。
サーフィンが上手い見慣れない色男がいて
やたらと目立った。
「あの人、めっちゃカッコ良くない?」
「ヤバッ!ホント、めっちゃカッコいいー!」
近くでボードを抱えた女の子たちが話していた。
男から見てもウットリするくらい
色っぽくてカッコよかったし、
とにかくサーフィンが上手くてオレはそいつから目が離せなかった。
半分羨望で、半分は嫉妬だった。
世の中にはこんなにカッコよく波に乗るヤツが居るんだなと思ったらなんか少し腹が立った。
いつもの海の家はまだオープン前で
オレはオープンを待って近くの砂浜に腰を下ろした。
そこへこの海の家のオーナーのオウスケさんがやってきた。
「あれ、リオ?
相変わらず早いなー。
待ってな、今、店開けるから。」
相変わらずチャラい見た目だけど
その瞳は優しさに溢れている。
「うん、オウスケさん、今年もよろしくね。」
オウスケさんは
夏になるとこのオシャレな海の家を開店してくれるこの砂浜の英雄だった。
都内で大きなホストクラブを経営し、
この海をこよなく愛するこの町では有名な人だ。
信じられないけどただ海が好きだからと
夏の間はホストクラブを他の人に任せて
自分はこの海の家で海を見ながら働いている。
オレは中学生の時からここの常連だった。
オレのサーフィンの師匠であるアキラさんがここに連れてきてくれたおかげで
オウスケさんはオレを可愛がってくれた。
「リオは今年から大学生だろ?
海しか行くトコ無いのかよ?
彼女とか居ないの?」
オレはこの手の話があまり好きでは無い。
彼女というものが出来たことも無いし、
好きな人も出来なかった。
そもそも恋愛にあまり興味がなく
毎日サーフィンばかりしていた。
女の子と話すよりオウスケさんやアキラさんとサーフィンの話をしてる方がよっぽど楽しかった。
「ユキナリ!
もう店開けるぞ。上がって手伝えー!」
オウスケさんが大きな声で海から上がったさっきのイケメンを呼んでヤツがやってきた。
「リオ、今年バイトに来てくれるユキナリ。
サーフィンうまいぞ。」
「うん、見た。めっちゃカッコ良くて腹たった。」
後ろからポンと頭を叩かれた。
「腹立つって何だよ。
よろしくな。高校生?」
「今年から大学生だよ。」
「ふうん。じゃあオレのがお兄さんな。
えっと…
お前はなんて名前だっけ?」
「リオ。」
「女みたいな名前だなぁ。」
ユキナリは手を出して握手を求めてきた。
オレは仕方なく握手を交わした。
「お前もサーフィン上手かったよ。」
近くで見るとますますイケてるなぁと思った。
「ユキナリさんはどこの人?」
「うん?東京の目黒の人。」
「へぇ、カッコいい人は都会のカッケーところに住んでるんだなぁ。」
オレがそう言うとユキナリは少し笑って
「ここだって最高じゃねぇか!
こんな海のあるところにオレも生まれたかったなぁ。」
と涼しい顔で言った。
鳶色の瞳に薄いミルクティーみたいな髪の色が
朝の日差しをうけてキラキラと光って眩しかった。
「お前サーフィンいつからやってるの?」
「中学生の頃、ここの常連のアキラさんに教えてもらった。
あ、アキラさんてわかる?」
「あぁ。オウスケさんと仲良い人だろ?
昨日、ちょっと挨拶したよ。」
誰も知らないことだけどアキラさんとオウスケさんは友達じゃない。
先輩後輩でもなかった。
アキラさんはオウスケさんの秘密の恋人で
それは多分オレ以外誰も知らない。
オウスケさんはホストという職業柄、
女の子が大好きなんだろうと思ってたけど
女のドロドロしたところを見過ぎたのか
アキラさんといつの間にかそういう仲になっていた。
2人がキスしてるのを高校生になったばかりのオレは偶然にも目撃してしまい
その事は誰にも言えなかった。
もちろん、オウスケさんにもアキラさんにも言わなかった。
それを話したらこの関係が崩れてしまう気がして
2人をそっと見守っていた。
案外すんなりと受け入れられた。
もともと自分は誰も好きになった事がない。
高校生の時、何人かの女子に告白されたけど
誰もピンとこなくて誰とも付き合えなかった。
もちろんまだ女の子を知らない。
女の子とキスしたこともない。
自分は無性愛者なんじゃないかと思っていた。
でも一度だけ酔っ払ったアキラさんにキスされたことがある。
「お前は可愛いなぁ。」
アキラさんはそう言ってオレに無理やりキスをした。
「俺と寝てみるか?」
そう言われた時は流石にビビった。
あの時、冗談だとアキラさんは笑ってたけど
オウスケさんに逢えなくて寂しかったんだと思う。
「やだよ。アキラさん男じゃん。」
「女も知らないのに男も女も無いだろ?」
そう言ってアキラさんはオレの頭を撫でた。
なんか少しだけドキッとしたが、
それは普段の優しい兄貴のようなアキラさんじゃなかったからだ。
とにかくもちろん男にだって興味なんかなかった。
キスされてあげたのも
アキラさんが良い人で恋愛感情抜きで大好きだからだった。
世の中には好きになっちゃいけないヤツがいるんだと。
その世界は蒼くて、甘くて、
そしてまるで深海のように真っ暗だった。
だけどオレはアイツしか見えなくて
他には何も要らないと思ったんだ。
ユキナリとの出逢いは
眩しい朝の海だった。
サーフィンが上手い見慣れない色男がいて
やたらと目立った。
「あの人、めっちゃカッコ良くない?」
「ヤバッ!ホント、めっちゃカッコいいー!」
近くでボードを抱えた女の子たちが話していた。
男から見てもウットリするくらい
色っぽくてカッコよかったし、
とにかくサーフィンが上手くてオレはそいつから目が離せなかった。
半分羨望で、半分は嫉妬だった。
世の中にはこんなにカッコよく波に乗るヤツが居るんだなと思ったらなんか少し腹が立った。
いつもの海の家はまだオープン前で
オレはオープンを待って近くの砂浜に腰を下ろした。
そこへこの海の家のオーナーのオウスケさんがやってきた。
「あれ、リオ?
相変わらず早いなー。
待ってな、今、店開けるから。」
相変わらずチャラい見た目だけど
その瞳は優しさに溢れている。
「うん、オウスケさん、今年もよろしくね。」
オウスケさんは
夏になるとこのオシャレな海の家を開店してくれるこの砂浜の英雄だった。
都内で大きなホストクラブを経営し、
この海をこよなく愛するこの町では有名な人だ。
信じられないけどただ海が好きだからと
夏の間はホストクラブを他の人に任せて
自分はこの海の家で海を見ながら働いている。
オレは中学生の時からここの常連だった。
オレのサーフィンの師匠であるアキラさんがここに連れてきてくれたおかげで
オウスケさんはオレを可愛がってくれた。
「リオは今年から大学生だろ?
海しか行くトコ無いのかよ?
彼女とか居ないの?」
オレはこの手の話があまり好きでは無い。
彼女というものが出来たことも無いし、
好きな人も出来なかった。
そもそも恋愛にあまり興味がなく
毎日サーフィンばかりしていた。
女の子と話すよりオウスケさんやアキラさんとサーフィンの話をしてる方がよっぽど楽しかった。
「ユキナリ!
もう店開けるぞ。上がって手伝えー!」
オウスケさんが大きな声で海から上がったさっきのイケメンを呼んでヤツがやってきた。
「リオ、今年バイトに来てくれるユキナリ。
サーフィンうまいぞ。」
「うん、見た。めっちゃカッコ良くて腹たった。」
後ろからポンと頭を叩かれた。
「腹立つって何だよ。
よろしくな。高校生?」
「今年から大学生だよ。」
「ふうん。じゃあオレのがお兄さんな。
えっと…
お前はなんて名前だっけ?」
「リオ。」
「女みたいな名前だなぁ。」
ユキナリは手を出して握手を求めてきた。
オレは仕方なく握手を交わした。
「お前もサーフィン上手かったよ。」
近くで見るとますますイケてるなぁと思った。
「ユキナリさんはどこの人?」
「うん?東京の目黒の人。」
「へぇ、カッコいい人は都会のカッケーところに住んでるんだなぁ。」
オレがそう言うとユキナリは少し笑って
「ここだって最高じゃねぇか!
こんな海のあるところにオレも生まれたかったなぁ。」
と涼しい顔で言った。
鳶色の瞳に薄いミルクティーみたいな髪の色が
朝の日差しをうけてキラキラと光って眩しかった。
「お前サーフィンいつからやってるの?」
「中学生の頃、ここの常連のアキラさんに教えてもらった。
あ、アキラさんてわかる?」
「あぁ。オウスケさんと仲良い人だろ?
昨日、ちょっと挨拶したよ。」
誰も知らないことだけどアキラさんとオウスケさんは友達じゃない。
先輩後輩でもなかった。
アキラさんはオウスケさんの秘密の恋人で
それは多分オレ以外誰も知らない。
オウスケさんはホストという職業柄、
女の子が大好きなんだろうと思ってたけど
女のドロドロしたところを見過ぎたのか
アキラさんといつの間にかそういう仲になっていた。
2人がキスしてるのを高校生になったばかりのオレは偶然にも目撃してしまい
その事は誰にも言えなかった。
もちろん、オウスケさんにもアキラさんにも言わなかった。
それを話したらこの関係が崩れてしまう気がして
2人をそっと見守っていた。
案外すんなりと受け入れられた。
もともと自分は誰も好きになった事がない。
高校生の時、何人かの女子に告白されたけど
誰もピンとこなくて誰とも付き合えなかった。
もちろんまだ女の子を知らない。
女の子とキスしたこともない。
自分は無性愛者なんじゃないかと思っていた。
でも一度だけ酔っ払ったアキラさんにキスされたことがある。
「お前は可愛いなぁ。」
アキラさんはそう言ってオレに無理やりキスをした。
「俺と寝てみるか?」
そう言われた時は流石にビビった。
あの時、冗談だとアキラさんは笑ってたけど
オウスケさんに逢えなくて寂しかったんだと思う。
「やだよ。アキラさん男じゃん。」
「女も知らないのに男も女も無いだろ?」
そう言ってアキラさんはオレの頭を撫でた。
なんか少しだけドキッとしたが、
それは普段の優しい兄貴のようなアキラさんじゃなかったからだ。
とにかくもちろん男にだって興味なんかなかった。
キスされてあげたのも
アキラさんが良い人で恋愛感情抜きで大好きだからだった。