ABYSS〜First Love〜
それからユキナリとは毎日のように一緒にサーフィンをして海の家で働いた。

オレは忙しい時だけ店を手伝って
ユキナリは厨房で料理したり、カクテルを作ったりしていた。

「リオはまだ酒飲めないのかー。」

「酒もタバコも興味ない。」

「リオはサーフィン以外何も興味ないからなぁ。」

オウスケさんはそんなオレをいつも心配してた。

「お前はまだ若いんだから恋愛とかして
間違いの一つや二つ犯してなきゃいけない年齢だぞ。

ユキナリ、お前が教えてやってよ。

酒とタバコはまだダメだけどせめて女とかさ。」

「オレも女の子はそんな興味ないですよ。」

「お前らどうかしてるぞ。

オレがお前らくらいの年の頃はさ、
夏の海の家といえば、一夜限りの恋とかしてさ
何人の女の子とヤレるか競ったもんだよ。

この草食男子どもが!」

オウスケさんはそう言いながらももうずっと女の子を抱いてない。

ここ何年かはずっとアキラさん一筋だった。

「リオは彼女とか欲しくないの?」

ユキナリがオレの顔を覗き込んでそんなことを聞いてきた。

「それ興味ある?」

オレが聞き返すとユキナリはなぜか頷いた。

「ユキナリさんは?都内に彼女とか居ないの?」

「居ない。
オレ、面倒くさいの苦手なんだ。

女って面倒くさくない?」

「面倒くさいかどうかもわかんない。

オレ、おかしいかな?」

ユキナリは少し笑って首を横に振った。

「おかしくないよ。

そういうのは自然にさ、突然誰かを好きになることもあるんだと思う。」

「オレ、もし付き合うんなら
サーフィンが好きで一緒にサーフィン出来る人がいいな。」

「オレみたいに?」

「え?」

「オレが女だったら惚れられてたなぁ。」

ユキナリが言った言葉になぜかドキドキした。

ホントにユキナリが女だったらいいと思った。

そんな時、オレたちの関係を変える女がやってきた。

「お前らを心配して新しく女の子のバイトを入れる事にした!

この子はさっちゃん。

向こうのデカい別荘の子だ。

美人だろ?」

オレはそのサチって子を見た時
嫌な予感しかしなかった。

サチの目は明らかにユキナリを狙ってた。

「あと1人、ミカちゃん、
ミカちゃんはリオも知ってる通り
また今年も手伝いに来てくれた。」

「ミカでーす。
毎年ここで手伝ってまーす。よろしくねぇ。

リオ、久しぶり!

ちょっと大人になったんじゃない?」

ミカさんは近くの家の酒屋の娘で
夏の間はこの海の家で自分の家のお酒を売っている。

アキラさんのことが好きでここ何年も片思いしている。

サバサバした性格とは不似合いの巨乳で
色っぽい身体をしている。

ただその色っぽい身体を持っていたところで
オウスケさんに夢中なアキラさんを誘惑することも出来ない。

不毛な恋だったがミカさんはそのことを知らなかった。

サチは猫撫で声でユキナリを呼ぶ。

「ねぇ、私にサーフィン教えて。」

オレはサチが嫌いだった。

美人で金持ちでチヤホヤされて育ってるから
男はみんな自分に気があると思ってる。

たしかに何人もの男にナンパされてるのを見たし
モテ人生を歩んでるのかもしれないが
少なくともオレはサチになんか何の興味もなかった。

それよりユキナリと遊ぶ時間が減って
なんだかすごく迷惑な女だと思っている。

ユキナリもユキナリでサチの誘いを断らないから余計に腹立たしかった。

< 2 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop