ABYSS〜First Love〜
ユキナリはオレを見ると隣にいる桃子を見た。

「え?」

ユキナリは完全に勘違いしている。

オレはそれを否定しようと思ったが
なぜかそれをしなかった。

ユキナリにヤキモチを妬かせたかった。

「元気だった?」

「彼女出来たんだ?」

ユキナリの目が泳いでオレの顔をまともに見なかった。

まだオレが好きなんだと思った。

「ユキナリは?結婚式はいつ?」

「あー、来年…かな。」

「そっか。」

オレが見たユキナリは完全に落胆していると思った。

あー、まだオレが好きなんだ。
そう思って嬉しくなった。

ユキナリも仕事の仲間と一緒だったようで
オレたちは別々に座り、
それでもお互いをずっと意識していた。

「タバコ吸ってくる。」

オレは昔のユキナリと同じタバコを吸っていた。

外に出て火をつけると
ユキナリが
「火貸して。」
と隣にやってきた。

「ガラム吸ってるんだ?
オレの影響?
てゆーかもうタバコも酒もイケるんだなぁ。」

ユキナリはもう違う銘柄で
スーツもタバコを吸う姿もサマになってた。

「ユキナリはもうこれ吸わないの?」

「たまにはいいかな。」

そう言ってユキナリはオレのガラムを奪うと
それを口にした。

死ぬほどセクシーだった。

オレはそのタバコをユキナリの口から取り上げるとユキナリにキスをした。

ユキナリはオレの手を引くと路地に入って
今度はユキナリからキスしてきた。

「リオ…誰だよ?あの女。」

オレは笑って言った。

「友達に決まってるだろ?」

そしてオレはまた自分からユキナリにキスをした。

「好きだよ。ずーっとユキナリだけ。」

そしてオレはユキナリの首筋に赤い跡を残した。

「連絡先教えて。」

ユキナリがとうとう堕ちたと思った。

オレはモデル事務所の名刺の裏に自分の携帯の番号を書いた。

ユキナリもオレに名刺をくれた。

「社会人みたいだな。」

とユキナリが笑った。

「キスした後に名刺交換てウケるな。」

「じゃ名刺交換の後にキスってのはどう?」

オレはまたユキナリにキスをした。

ユキナリは笑って

「リオ…逢いたかった。」

とオレを抱きしめてくれた。

幸せだったけど夢みたいで不安だった。

ユキナリはいつも自分から誘って自分から逃げる。

オレはユキナリを繋ぎ止める術をまだ知らなかった。

席に戻ると桃子はだいぶ飲んでたみたいだった。

「どこ行ってたの?」

「タバコだって。」

「何本吸ってたのよ?遅い!」

桃子がいい感じに出来上がってたからタクシーを呼んで先に帰した。

オレは一人でカウンターに座って
ユキナリを見てた。

たまにユキナリもこっちを見て
オレたちは遠くから見つめあった。

いつも先に視線を外すのはユキナリだった。

今夜はこのまま別れたくなかった。

ユキナリが仕事仲間と別れるのを待って
一人になったユキナリの手を繋いだ。

「え?お前、何してんの?」

「わかってたでしょ?待ってるって。

ね、オレんち来る?」

ユキナリは迷ってたがオレは強引にその手を取った。

「どこなの?リオのウチって。」

「ここから近いよ。」

「いいとこ住んでるんだな。
モデルは儲かるの?」

「そうでもないよ。
でも部屋は事務所が借りてくれてる。」

「監視とかされてんじゃねぇの?」

「まさか!モデルだよ?
アイドルじゃないよ。

それに手を繋いで入らなきゃ
ただの友達にしか見えないよ。」

でもオレの目は完全にユキナリに恋してた。



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