ABYSS〜First Love〜
サチが帰った後、オレはタクシーを拾って
リオの部屋に急いだ。

何度も電話したがリオは電話をとってくれなかった。

正直焦った。

もしかしたらリオに別れを告げられるかも知れない。

リオのマンションに着いてオートロックのマンションのインターフォンの前で何度もリオの部屋の番号を押した。

やっと扉が開いてオレはエレベーターで上に上がる間、ずっと言い訳を考えてた。

リオの部屋の前のベルを鳴らすとリオが出てきていきなりオレに抱きついた。

絶対に怒って罵倒されると思ってたのに
リオはただオレを強く抱きしめてくるだけだった。

「リオ…ごめん…言えなくて。
サチが婚約者だってお見合いの時に初めて知ったんだ。」

「オレの前で他のヤツ、呼び捨てにするなよ。
昔はサッちゃんて言ってたろ?

サッちゃんもユキナリって呼び捨てにして…ユキナリはオレのもんなのに…」

そう言ってリオは泣いた。

「リオ…許してくれよ。泣くなって。」

リオが苦しんでるのがわかって
オレも悲しかった。

でもリオはいつでもオレを簡単に許した。

「ユキナリがすぐに来てくれたからいい。
でも…今夜はここに泊まってよ。」

「うん。」

オレとリオの愛はどんどん深くなる。

このままじゃリオは不倫相手になる。

例えそうなったとしても
もうリオはオレから離れられないんだろう?

何よりオレがリオのことが堪らなく好きで
手放したくなくて、リオを不幸にするとわかってももう止められなかった。

「リオ…オレ結婚しちゃダメだよな?」

リオは応えなかった。

その代わりにオレの身体中にキスをした。

「愛してるよ。どんなユキナリでも死ぬほど好き。」

オレはそんなリオが健気で可愛くて
そして誰よりも愛してると思った。

「オレのが多分愛してるよ。
お前が思ってるよりずっとオレはお前が好きだから。」

リオはオレと愛しあえればどんな形でも幸せだと言った。

このままリオを愛人にする気はなかった。

もうリオ以外は何も要らないと思ってしまった。

次の日オレはオヤジに逢いに行った。

親不孝で自分勝手だってわかっていても
もう限界だった。

オレはオヤジの前で土下座して

「許してください。
好きな人がいて…もうどうにもならなくて…
結婚は本当に悪いんだけど出来ないってわかったんだ。

それ以外のことなら何でもするから。
会社頑張って立て直すって約束するから。

お願いです。許してください。」

オレは本当に親不孝だと思ったがリオのために全てを捨てると誓った。

だけどオヤジは怒るどころかそんなオレを笑って許してくれた。

どこかでオレが追い詰められてると薄々感じていたようだった。

「わかった。ごめんな。お前にみんな押し付けて…。
オレの方こそ悪かった。」

オヤジが責めてくれた方が多分楽だったけど
優しい言葉をかけられて本当に申し訳なくて涙が出た。

「馬鹿だなぁ。泣くなよ。
オレだって随分身勝手なことしてお前に苦労かけたよな。

なぁ、ユキ、そんなに好きな子ってどんな子だ?」

オレは本当のことを話すべきか迷ったが
ちゃんと話した方がわかってもらえると思った。

「ごめん…女の子じゃないんだ。…相手は男で。オレ…だからサチじゃダメで…。」

オヤジにはきっとすごく衝撃的な話だったと思うが、オヤジは誰よりオレを愛してた。

「そうだったのか。
そりゃ無理だよな。
結婚したって向こうのお嬢さんが不幸になるだけだ。
そんなこと打ち明けるの大変だよなぁ。
そうか…オレのせいかもしれないな。
ユキ、外出許可をもらって来てくれないか?」

オレのせいかもしれないって言葉は
オレが女の子を好きになれないのが自分の不貞のせいじゃないかとオヤジは自分を責めて
オレはますます親不孝をしたと思った。

それは絶対に違うって何度言っても納得してないみたいだった。



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