ABYSS〜First Love〜

そしてオヤジはオレのために具合の悪い身体を引き摺ってサチの父親に逢って頭を下げてくれた。

「申し訳ない。
ユキを無理矢理結婚させようと思ったが…
ユキには難しいみたいだ。

オレのせいで息子を追い詰めてしまった。

君にも本当に申し訳ない。」

オヤジが深々と頭を下げてオレはサチの父親に土下座した。

「サッちゃんが嫌いなわけじゃないんです。
ただこれはオレの心の問題で…」

するとオヤジがサチの父親にホントのことを打ち明けてしまった。

「すまない。
コイツは普通じゃないそうだ。

性的マイノリティってヤツで普通に女の子と恋愛出来ないらしい。」

オヤジから普通じゃないって言われるのはちょっと悲しかったけど
オヤジなりのサチの父への気遣いだったんだろう。

サチの父親はしばらく黙っていたが
それを知って納得はしたみたいだった。

「サチからユキナリ君の様子がここのところおかしいって聞いてたんだが…そうか。

君も随分苦しんだんだろう。

とにかくサチじゃ無理だってことはよくわかった。

何より黙って結婚してくれなくてよかった。

サチが不幸になったら私はあの子に合わせる顔がない。

わかりました。

結婚は白紙に戻しましょう。

サチには私から話します。

君はもうサチには会わないでくれ。」

サチの父親はウチのオヤジのことを気にかけて
破談に応じてくれた。

そしてオレに今の仕事を辞めて
父の会社に戻るように言われた。

もちろん合併の話も無かったことになるはずだったが
オヤジは自分の会社と社員ををサチの父親に託したいと言った。

もちろんそこにオレの居場所はなかった。

自分1人の力で生きていけとオヤジに言われた。

そしてオレは丸裸で家を出された。

それはオヤジのサチとサチの父親への配慮だった。

オヤジはサチを傷つけたオレを決して許したりしないとサチの父親には言ったが
本当はお前は好きに生きろって言ってくれてるんだと思った。

しばらくしてサチから連絡が来た。

案の定サチは怒ってた。

「パパは理由を教えてくれなかった。

ユキナリとは破談にしたって。

それだけ。

それなのにユキナリのお父さんの会社はウチのパパのものになった。

どういうこと?

ユキナリはこれからどうするの?」

オレはなんてサチに説明していいかわからなかった。

リオのことは言いたくなかった。

サチはきっとリオを傷つけると思ったから。

「ごめん。サチは何も悪くないんだ。
オレ自身の問題なんだ。」

「どうしてユキナリはホントの事、最後まで何も教えてくれないの?
こうなる前に私のこと一度でも考えたくれた?」

サチが怒るのは当たり前だった。

オレはサチに何も言わず、いつも自分のことを隠してきた。

「ごめん…オレは…オレは…」

その先が出て来なかった。

オヤジに言ったみたいに
男が好きだと言えばいいのか迷っていた。

でもサチがリオを知ってるから言えなかった。

「もういい!

でも私は絶対にユキナリの事許さないから!」

サチには最後まで誠意が無かったと思う。

恨まれても仕方ないと思ったが
オレはサチを甘く見てた。

結局この誠意のない態度がサチに深い傷を負わせ
サチを闇に引き摺り込んだ。

しばらくしてサチがタクミと付き合ってると聞いた。

タクミはアイドルを諦めて海の家でバイトした後、定職にも就かずに色んな女の子と遊んでいて
いい噂を聞いたことがなかった。

そしてサチもそんなタクミの色に染められていった。

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