ABYSS〜First Love〜
それでもバカみたいだけど
オレはリオがどんな暮らしをしてるのか気になって
アイツの働いてる場所を誰にも言わずに見に行った。

もちろん声をかけるつもりなんか無い。

アイツの顔を見ても無視してやる。

そう思って湘南の海に向かった。

検索してみたところ
華やかなビーチサイドにあるその店は居酒屋っていうにはあまりに小洒落ていて
美味しそうな海鮮料理の写真が並んでた。

オレは今、その店の前にある海に来ていた。

そこでリオによく似たサーファーを見つけて
目を凝らして見ると
どう見てもリオだった。

アイツがサーフィンをしてる姿を久しぶりに見たが
前ほど綺麗なライディングじゃなかったが
リオはやはり輝いてた。

リオはあの頃よりずっと大人になってた。

相変わらず一人ぼっちで
自分だけの世界で生きてる。

オレはボードを持ってきたからリオと少し離れた場所で波に乗った。

人に興味のないリオはオレの存在に全く気づいてないようだ。

そして仕事の時間なのかリオは海を上がった。

オレはリオの店が開店するまで待って
その店に勇気を出して入ってみた。

そこにリオはいた。

オレはリオと目を合わせなかった。

メニューとおしぼりを持ってきたリオの手が震えてるのがわかった。

「い、いらっしゃい…ユキナリ…だよな?」

「とりあえず生ビール中ジョッキで…」

「あ、はい。生一つお願いしまーす!」

リオはその場所に立ったまましばらく動けなかった。

「ユキナリ…何で?」

「えっと…お前、誰だっけ?」

その時オレはリオの顔を初めて見た。

アイツは真っ赤な顔で震えながら立ってた。

まだオレに惚れてるのがよくわかって
オレはリオを許してやろうかと思った。

「ゴメン…ユキナリ…オレ、オレは…」

何か言いたそうにしてたけど
リオは他の客に呼ばれてその場を離れた。

オレは他の人が持ってきたビールを一気に飲んで店を出た。

リオが後ろから追いかけてきた。

「ゴメン、ユキナリ、待って!」

リオがオレの腕を掴んでオレはアイツの手を振り払った。

「お前、謝れば許されると思ってんの?」

「ゴメン…でも…」

「仕事中だろ?

今夜あのホテルに泊まってるから仕事終わったら来いよ。」

リオは頷いてもう一度謝ると店に戻って行った。

あんなに声はかけないって決めてたのに
オレはアイツの顔を見たくて、
顔を見ると話したくなって
そしてアイツが謝ったから簡単に許してしまいそうだ。

さっきリオに掴まれた腕が熱くて
ホテルの部屋でも落ち着かなかった。

アイツに触れたいと思った。

オレはアイツが来るまで
ジッとしてられなくて少し外を散歩した。

そしてリオの働く店の近くまで見に行って
アイツが本当に来るのか心配で様子を見に行った。

そんな自分があまりにも滑稽で笑ってしまう。

人を好きになるって本当に頭がおかしくなるんだよな…なんて考えながらアイツが店から出てくるのを待った。

そして深夜の一時近くになってリオは店から出てきた。

オレの姿を見つけて
アイツはまるで飼い犬みたいに飛んできた。

「迎えに来てくれたの?」

「散歩してただけ。

よく考えたら部屋番号言ってねーし
どこだかわかんねーかなって思って…」

オレはよくこういう帰り道とかでリオが手を繋いで来たのを思い出した。

でも今のリオはもっと冷静というか注意深くて
なんだかちょっと物足りなく感じた。

「ゴメン、ずっと逢いに行こうって思ってたけど
なかなか勇気出なくて…」

「お前さ、普通一本くらい電話入れるだろ?」

「ユキナリが怒ってるって思ったし、許してくれないって思って…怖かったんだ。」

これは本心なんだろうか?

3年も離れていられるほど
オレが逢いにこなけりゃ連絡すらしなかったリオはまだオレに気持ちがあるんだろうか?

オレはそんな不安でいっぱいだった。

今はもうオレの方がリオに惚れてるんだと改めて思い知らされた感じだった。

< 42 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop