ABYSS〜First Love〜
行きの車中で交わした言葉は
「痛むか?」
とユキナリが聞いて
「それほどもう痛くないよ。」
とオレが答えただけだった。
オレは何だか恥ずかしくてずっと窓の外を見ていた。
窓の外には陽の光に反射してキラキラと光る海が見えた。
潮の香りがオレを誘っているみたいに
波に乗りたくて落ち着かなくなる。
「安静にしてれば大丈夫でしょう。
明日も消毒に来てください。」
医者はそう言ったけど冗談じゃないと思った。
こんなにユキナリと一緒に居たら
オレはどうにかなってしまいそうだ。
何とか距離を置かなくては
ユキナリへの気持ちが否定できなくなりそうだった。
「家で消毒するんで…もう…」
「傷の経過も診たいので
できればまだ数日は通ってください。」
たかがこの程度の怪我で大袈裟だと思ったが
医者の言うことを聞かないほど子供でもない。
しかしこれ以上ユキナリに付き添ってもらうわけにはいかないから
ユキナリにはもう来なくていいと言われたと嘘をついた。
「海、行きてぇな。」
帰りの車中は沈黙に耐えられなくて
オレは喋り続けた。
「まだ当分は無理だろうなぁ。」
「な、海見てるだけでいいから海の家連れてってよ。」
「ダメだよ。傷口に砂入ったら大変だろ?」
ユキナリは海には寄らずオレを部屋まで送ると
「また来る。」
と言って帰っていった。
相変わらず部屋の鍵は返さないままだった。
何もすることが無くて退屈だった。
配信で観たかった映画を観たり、
ずっとやってなかったゲームを引っ張り出してきた。
サーフィンの動画は海が恋しくなるので観なかった。
しばらくするとアキラさんが見舞いにやって来た。
アキラさんは芸術大学の出身で
今は自宅で何やら映像の仕事をしているらしい。
趣味は陶芸で作品は何か小さな賞を獲ったことがあるらしく
役場の人に頼まれてたまにコミュニティセンターで陶芸教室の講師もしていた。
オレにはいつも羨ましいくらい自由な人に見えた。
「脚、怪我したって?」
アキラさんはマスクメロンを持ってきた。
「え?こんな良いものもらって良いの?」
「お見舞いって言ったら箱に入ったメロンしか思い浮かばなくて…」
アキラさんはオレの脚を触って
「これじゃ当分サーフィン出来ねぇな。」
と笑っていた。
「笑い事じゃねぇよ。
オレ海に入らなかったらマジで死にたいくらい退屈なんだよ。
せめて海だけでも見たいってユキナリさんに頼んだけど砂が傷に入るからダメだって連れてってもらえなかった。
ね、アキラさんが連れてってよ。」
「でも砂が入って悪化してみろよ。
もっと海が遠のくぞ。
じゃあ、オレの工房に連れてってやる。
陶芸教えてやるよ。」
アキラさんはオレを車に乗せて
山の方にある工房に連れて行ってくれた。
小さな山小屋があって思ったより大きな手作りの窯があった。
「すげー、これアキラさんが作ったの?」
「うん、リオは何作りたい?
茶碗とか…皿とか?」
「んじゃ、茶碗。」
アキラさんは粘土を持ってきてやり方を教えてくれた。
オレは器用じゃないからイビツな形になって何度もやり直した。
土の感触が気持ちよくて、サーフィンが出来ないイラついてた気持ちがちょっと落ち着く感じがした。
何度もやり直してると背後からアキラさんが手を貸してくれた。
「もっとこう優しく…な?」
オレの耳元でアキラさんが囁いた。
何となくマズイ感じがした。
オレがいきなり立ち上がって
アキラさんはビックリしてた。
「リオ?」
「いや、ごめん。」
恥ずかしかった。
アキラさんにそう言う気持ちがあると勘違いした。
「わかってるよ。
オレがゲイだって知ってるよな?」
アキラさんを傷つけたと思った。
「痛むか?」
とユキナリが聞いて
「それほどもう痛くないよ。」
とオレが答えただけだった。
オレは何だか恥ずかしくてずっと窓の外を見ていた。
窓の外には陽の光に反射してキラキラと光る海が見えた。
潮の香りがオレを誘っているみたいに
波に乗りたくて落ち着かなくなる。
「安静にしてれば大丈夫でしょう。
明日も消毒に来てください。」
医者はそう言ったけど冗談じゃないと思った。
こんなにユキナリと一緒に居たら
オレはどうにかなってしまいそうだ。
何とか距離を置かなくては
ユキナリへの気持ちが否定できなくなりそうだった。
「家で消毒するんで…もう…」
「傷の経過も診たいので
できればまだ数日は通ってください。」
たかがこの程度の怪我で大袈裟だと思ったが
医者の言うことを聞かないほど子供でもない。
しかしこれ以上ユキナリに付き添ってもらうわけにはいかないから
ユキナリにはもう来なくていいと言われたと嘘をついた。
「海、行きてぇな。」
帰りの車中は沈黙に耐えられなくて
オレは喋り続けた。
「まだ当分は無理だろうなぁ。」
「な、海見てるだけでいいから海の家連れてってよ。」
「ダメだよ。傷口に砂入ったら大変だろ?」
ユキナリは海には寄らずオレを部屋まで送ると
「また来る。」
と言って帰っていった。
相変わらず部屋の鍵は返さないままだった。
何もすることが無くて退屈だった。
配信で観たかった映画を観たり、
ずっとやってなかったゲームを引っ張り出してきた。
サーフィンの動画は海が恋しくなるので観なかった。
しばらくするとアキラさんが見舞いにやって来た。
アキラさんは芸術大学の出身で
今は自宅で何やら映像の仕事をしているらしい。
趣味は陶芸で作品は何か小さな賞を獲ったことがあるらしく
役場の人に頼まれてたまにコミュニティセンターで陶芸教室の講師もしていた。
オレにはいつも羨ましいくらい自由な人に見えた。
「脚、怪我したって?」
アキラさんはマスクメロンを持ってきた。
「え?こんな良いものもらって良いの?」
「お見舞いって言ったら箱に入ったメロンしか思い浮かばなくて…」
アキラさんはオレの脚を触って
「これじゃ当分サーフィン出来ねぇな。」
と笑っていた。
「笑い事じゃねぇよ。
オレ海に入らなかったらマジで死にたいくらい退屈なんだよ。
せめて海だけでも見たいってユキナリさんに頼んだけど砂が傷に入るからダメだって連れてってもらえなかった。
ね、アキラさんが連れてってよ。」
「でも砂が入って悪化してみろよ。
もっと海が遠のくぞ。
じゃあ、オレの工房に連れてってやる。
陶芸教えてやるよ。」
アキラさんはオレを車に乗せて
山の方にある工房に連れて行ってくれた。
小さな山小屋があって思ったより大きな手作りの窯があった。
「すげー、これアキラさんが作ったの?」
「うん、リオは何作りたい?
茶碗とか…皿とか?」
「んじゃ、茶碗。」
アキラさんは粘土を持ってきてやり方を教えてくれた。
オレは器用じゃないからイビツな形になって何度もやり直した。
土の感触が気持ちよくて、サーフィンが出来ないイラついてた気持ちがちょっと落ち着く感じがした。
何度もやり直してると背後からアキラさんが手を貸してくれた。
「もっとこう優しく…な?」
オレの耳元でアキラさんが囁いた。
何となくマズイ感じがした。
オレがいきなり立ち上がって
アキラさんはビックリしてた。
「リオ?」
「いや、ごめん。」
恥ずかしかった。
アキラさんにそう言う気持ちがあると勘違いした。
「わかってるよ。
オレがゲイだって知ってるよな?」
アキラさんを傷つけたと思った。