ABYSS〜First Love〜
ユキナリ
sideB-1
オレはずっと色んな気持ちを隠してきた。
小さい頃、父は家に帰らず
母には若い恋人がいた。
オレはそんな両親を見て育ち
結婚なんかしたくないと思った。
別に人に興味がないわけじゃなかったが
オレは女の子に対する興味が次第に薄れていった。
小学校ではクラスの女の子のほとんどがオレが好きだと言った。
バレンタインデーには食べきれないほどのチョコレートをもらった。
中学に入るとたくさんの女の子から告白された。
高校では他校の生徒からも毎日のように声をかけられて
ファンクラブなるものが出来た。
相変わらず何人もの女の子に告白されたけど
みんなオレの何が良くて好きだと言うのか理解できず
誰一人としてオレの心は動かなかった。
勉強はそこそこ。
スポーツは得意だったけど部活に入って何かに熱中するほどじゃない。
いったいこんなオレの何が良くて女の子はオレに興味を持つのか理解に苦しんだ。
オレは次第に女の子に冷たくなっていった。
そんな何もかもが中途半端な人生だったが
オレにはたった一つだけ好きなものがあった。
それがサーフィンだった。
オヤジの影響で小さい頃はしょっちゅう海に行ってた。
オヤジが波に乗る姿に影響されて
自分もやりたいとお願いした。
ずっとオヤジがカッコいいと思ってたが
中学生になったばかりの頃、
知らない若い女と遊ぶオヤジを見て
それからはオヤジと一緒に海には行かなくなった。
一人で練習してると
地元のサーファーの人が声をかけてくれて
その人たちと一緒に遊ぶようになった。
その中の1人が少し年上の高校生でサーフィンが大好きな明るくて優しくて良い人だったが
「なぁ、ユキは好きな子とかいねぇの?
そんなカッコよかったら選び放題だろ?」
彼がいきなりそんな話をして
オレは誰も好きになったことがないと言った。
「オレさ、もうお前と遊べない。
てゆーかお前の顔見たくないんだ。」
「え?」
「オレの彼女知ってるだろ?」
「あ、この前紹介してくれた人?」
「アイツ、オレじゃなくてお前が好きになったってさ。」
オレは何にも言えなかった。
彼とはそれきり遊べなくなって
オレは違う海を探した。
そこでまた違うサーファーの人たちに出逢った。
向こうから声をかけてきてくれたが
オレはあまり深く関わりたくなかった。
人と仲良くなるとトラブルになるからだ。
「サーフィンうまいよね。
どこから来たの?」
その中でも一人だけ何度も誘ってくる人がいた。
その人は人懐っこい笑顔で
オレが避けてもまた声を掛けてくる。
「ねぇ、昼飯食った?
よかったら美味いとこ教えてあげるよ。」
笑顔が爽やかで無碍にするのも何だか悪くて
オレは仕方なく一度だけ付き合うことにした。
彼が連れてってくれた海鮮丼屋は地元の人しか行かないようなわかりにくい場所にあって
観光客が行く店にはない雰囲気があった。
「やべえ。めちゃくちゃ美味い。」
「だろ?」
それから彼とは顔を合わせると一緒に飯を食う仲になった。
仲良くなったある日、
彼はオレに言った。
「オレさ、お前が好きなんだ。
わかってるよ。
男だし、気持ち悪いとか思われるって。
でも…もう気持ち隠さないことに決めたんだ。」
オレはどうしていいかわからなかった。
何も言えず、その場にただ立ち尽くしてた。
「わかった。
ダメならハッキリ言ってくれていいよ。
うまく行くなんてハナから思ってないから。」
オレは彼が嫌いじゃなかった。
一緒にいると楽しかったし、ずっと仲良くしていたかった。
でも男を恋する気持ちがわからなくて何とも返事に困った。
それに恋人と友達は何が違うのかもわからない。
スキンシップがあるか無いかなんだろうか?
だとしても彼とそういう仲になることは想像できなかった。
「ちょっと待って。
オレ…こういうの初めてですぐには返事できない。」
「うん。わかった。
なんかゴメン。」
次の日、彼に友達でいようと返事をするつもりで出かけようとした時、
母親が入院したとオヤジから連絡をもらった。
母親は若い男と揉めて怪我をした。
オヤジはそれを知ってますます夫婦の仲は悪くなった。
家族はほとんど崩壊状態になって
離婚寸前になった。
彼に返事をちゃんと伝えようと思っていたのに
家のゴタゴタでしばらく海に行けなかった。
もしかしたら彼はオレに避けられたと勘違いしているかもしれない。
そう思うと落ち着かなくて
早く海に行きたかった。
親のことはすぐには答えが出ず
オレはもう別れようがよりを戻そうが
どうでもよくなった。
とにかく早く彼と話すべきだと思った。
ところがオレが海に行った日、彼は海に来なかった。
その次の日もまたその次の日も彼が来ることはなかった。
オレは彼に連絡したが電話はもう繋がらなかった。
暫くして彼のお兄さんから逢いたいと連絡があった。
なぜ本人じゃなくてお兄さんなのか…
オレはすごく嫌な予感がした。
「君がユキナリくん?」
お兄さんはサーフィンもやらないのに大きなボードケースを持ってやってきた。
オレはそのボードケースを見てすぐにわかった。
それは彼のものだったから。
「あ、はい。
あの…弟さんは今どこに?」
「アイツね、1ヶ月くらい前に事故にあって
頭強く打って…亡くなったんだ。
アイツのもの整理してたら君のこといつも話してたの思い出して…
それでこれを君にもらって欲しくて…」
お兄さんに彼のサーフボードを渡された。
それは彼がいつも丁寧に手入れしていて
とても大切にしていたボードだった。
「貰えません。
オレ、そんな資格ないです。」
「知ってる?
アイツは君のこと好きだったんだ。
アイツ悩んでたんだよ。
自分は他の人と違うって言って…
無理して人に合わせて…
その事でたくさん傷ついて…
でも君と知り合ってすごく楽しいって言って…
もうちゃんと自分を受け入れるって言ってた。」
それがあの告白だった。
オレは彼にそう思われても嫌じゃなかった。
むしろ、会えなくなったら
すごく寂しいと思っていた。
後悔した。
すぐに返事すればよかった。
あの時ちゃんと呼び止めて
気持ちを伝えればよかった。
そしてお兄さんの話からあの告白の次の日に
彼が事故に遭って帰らぬ人になったと知った。
オレが海に行かなかったことで
彼は気落ちしていたんだと思う。
もしかしたら自ら死に向かって行ったんじゃないかとも思った。
そう考えるととても怖かった。
「オレ…こんな大事なものもらえないです。
そんな資格ないし…
アイツに好きって言われて…ちゃんと答えられなかったんです。
でも…アイツのことすごく好きでした。
恋愛とかはわかんないけど…
ホントに良いヤツで…大切な友達だったから。」
オレはお兄さんの前でボロ泣きして
お兄さんはただ慰めてくれた。
「そんなに泣いてくれてアイツもきっと幸せだよ。
君のせいじゃない。
アイツは最後まで君に逢いたがってた。」
結局そのボードは今もオレの部屋にある。
そして5年後の彼の命日にオレはリオに出会った。
リオはどこか彼に似ていた。
小さい頃、父は家に帰らず
母には若い恋人がいた。
オレはそんな両親を見て育ち
結婚なんかしたくないと思った。
別に人に興味がないわけじゃなかったが
オレは女の子に対する興味が次第に薄れていった。
小学校ではクラスの女の子のほとんどがオレが好きだと言った。
バレンタインデーには食べきれないほどのチョコレートをもらった。
中学に入るとたくさんの女の子から告白された。
高校では他校の生徒からも毎日のように声をかけられて
ファンクラブなるものが出来た。
相変わらず何人もの女の子に告白されたけど
みんなオレの何が良くて好きだと言うのか理解できず
誰一人としてオレの心は動かなかった。
勉強はそこそこ。
スポーツは得意だったけど部活に入って何かに熱中するほどじゃない。
いったいこんなオレの何が良くて女の子はオレに興味を持つのか理解に苦しんだ。
オレは次第に女の子に冷たくなっていった。
そんな何もかもが中途半端な人生だったが
オレにはたった一つだけ好きなものがあった。
それがサーフィンだった。
オヤジの影響で小さい頃はしょっちゅう海に行ってた。
オヤジが波に乗る姿に影響されて
自分もやりたいとお願いした。
ずっとオヤジがカッコいいと思ってたが
中学生になったばかりの頃、
知らない若い女と遊ぶオヤジを見て
それからはオヤジと一緒に海には行かなくなった。
一人で練習してると
地元のサーファーの人が声をかけてくれて
その人たちと一緒に遊ぶようになった。
その中の1人が少し年上の高校生でサーフィンが大好きな明るくて優しくて良い人だったが
「なぁ、ユキは好きな子とかいねぇの?
そんなカッコよかったら選び放題だろ?」
彼がいきなりそんな話をして
オレは誰も好きになったことがないと言った。
「オレさ、もうお前と遊べない。
てゆーかお前の顔見たくないんだ。」
「え?」
「オレの彼女知ってるだろ?」
「あ、この前紹介してくれた人?」
「アイツ、オレじゃなくてお前が好きになったってさ。」
オレは何にも言えなかった。
彼とはそれきり遊べなくなって
オレは違う海を探した。
そこでまた違うサーファーの人たちに出逢った。
向こうから声をかけてきてくれたが
オレはあまり深く関わりたくなかった。
人と仲良くなるとトラブルになるからだ。
「サーフィンうまいよね。
どこから来たの?」
その中でも一人だけ何度も誘ってくる人がいた。
その人は人懐っこい笑顔で
オレが避けてもまた声を掛けてくる。
「ねぇ、昼飯食った?
よかったら美味いとこ教えてあげるよ。」
笑顔が爽やかで無碍にするのも何だか悪くて
オレは仕方なく一度だけ付き合うことにした。
彼が連れてってくれた海鮮丼屋は地元の人しか行かないようなわかりにくい場所にあって
観光客が行く店にはない雰囲気があった。
「やべえ。めちゃくちゃ美味い。」
「だろ?」
それから彼とは顔を合わせると一緒に飯を食う仲になった。
仲良くなったある日、
彼はオレに言った。
「オレさ、お前が好きなんだ。
わかってるよ。
男だし、気持ち悪いとか思われるって。
でも…もう気持ち隠さないことに決めたんだ。」
オレはどうしていいかわからなかった。
何も言えず、その場にただ立ち尽くしてた。
「わかった。
ダメならハッキリ言ってくれていいよ。
うまく行くなんてハナから思ってないから。」
オレは彼が嫌いじゃなかった。
一緒にいると楽しかったし、ずっと仲良くしていたかった。
でも男を恋する気持ちがわからなくて何とも返事に困った。
それに恋人と友達は何が違うのかもわからない。
スキンシップがあるか無いかなんだろうか?
だとしても彼とそういう仲になることは想像できなかった。
「ちょっと待って。
オレ…こういうの初めてですぐには返事できない。」
「うん。わかった。
なんかゴメン。」
次の日、彼に友達でいようと返事をするつもりで出かけようとした時、
母親が入院したとオヤジから連絡をもらった。
母親は若い男と揉めて怪我をした。
オヤジはそれを知ってますます夫婦の仲は悪くなった。
家族はほとんど崩壊状態になって
離婚寸前になった。
彼に返事をちゃんと伝えようと思っていたのに
家のゴタゴタでしばらく海に行けなかった。
もしかしたら彼はオレに避けられたと勘違いしているかもしれない。
そう思うと落ち着かなくて
早く海に行きたかった。
親のことはすぐには答えが出ず
オレはもう別れようがよりを戻そうが
どうでもよくなった。
とにかく早く彼と話すべきだと思った。
ところがオレが海に行った日、彼は海に来なかった。
その次の日もまたその次の日も彼が来ることはなかった。
オレは彼に連絡したが電話はもう繋がらなかった。
暫くして彼のお兄さんから逢いたいと連絡があった。
なぜ本人じゃなくてお兄さんなのか…
オレはすごく嫌な予感がした。
「君がユキナリくん?」
お兄さんはサーフィンもやらないのに大きなボードケースを持ってやってきた。
オレはそのボードケースを見てすぐにわかった。
それは彼のものだったから。
「あ、はい。
あの…弟さんは今どこに?」
「アイツね、1ヶ月くらい前に事故にあって
頭強く打って…亡くなったんだ。
アイツのもの整理してたら君のこといつも話してたの思い出して…
それでこれを君にもらって欲しくて…」
お兄さんに彼のサーフボードを渡された。
それは彼がいつも丁寧に手入れしていて
とても大切にしていたボードだった。
「貰えません。
オレ、そんな資格ないです。」
「知ってる?
アイツは君のこと好きだったんだ。
アイツ悩んでたんだよ。
自分は他の人と違うって言って…
無理して人に合わせて…
その事でたくさん傷ついて…
でも君と知り合ってすごく楽しいって言って…
もうちゃんと自分を受け入れるって言ってた。」
それがあの告白だった。
オレは彼にそう思われても嫌じゃなかった。
むしろ、会えなくなったら
すごく寂しいと思っていた。
後悔した。
すぐに返事すればよかった。
あの時ちゃんと呼び止めて
気持ちを伝えればよかった。
そしてお兄さんの話からあの告白の次の日に
彼が事故に遭って帰らぬ人になったと知った。
オレが海に行かなかったことで
彼は気落ちしていたんだと思う。
もしかしたら自ら死に向かって行ったんじゃないかとも思った。
そう考えるととても怖かった。
「オレ…こんな大事なものもらえないです。
そんな資格ないし…
アイツに好きって言われて…ちゃんと答えられなかったんです。
でも…アイツのことすごく好きでした。
恋愛とかはわかんないけど…
ホントに良いヤツで…大切な友達だったから。」
オレはお兄さんの前でボロ泣きして
お兄さんはただ慰めてくれた。
「そんなに泣いてくれてアイツもきっと幸せだよ。
君のせいじゃない。
アイツは最後まで君に逢いたがってた。」
結局そのボードは今もオレの部屋にある。
そして5年後の彼の命日にオレはリオに出会った。
リオはどこか彼に似ていた。