ABYSS〜First Love〜
時々リオはオレをディスる。

生意気だが、憎めない。

リオはまるでオリンピックでも目指してるみたいにサーフィンに一生懸命で
見るたびに上達してる感じだった。

もちろんオリンピックに出られるレベルではないけれどいつも全力だった。

オレはあまり同じ人と同じ場所にいたくない。

人と深い関係を持ちたくないからだ。

なぜかオレと深く関わると相手は不幸になった。

失うくらいなら友達なんて要らなかった。

だから海の家のバイトは毎年違う海水浴場にした。

大学に通っている時は千葉と神奈川の海で波に乗るが
夏休みだけは離れた地方の海に行く。

そんなこの夏休みだけのこの海で
オレはリオと出逢ってしまった。

リオは予測不可能で
オレのことが嫌いなのかと思えば
妙に懐いて来るところもある。

急に怒ったり黙ったりして
情緒不安定みたいで扱いに困った。

とにかくリオは若く無鉄砲で
それがリオの魅力でもあった。

そんなリオが怪我をした時はホントに怖かった。

リオが気を失っていた時、本当は震えていた。

「大丈夫か?」

そしてリオが目を覚ましたときは抱きしめたくなるくらい嬉しかった。

そんなリオがあの日、突然オレにキスして来やがった。

まったく理解できない宇宙人だと思った。

好きとか言われたこともなく
急にキスして来るってあんまりにも自分勝手なヤツだ。

でもそれがリオらしいと言えばリオらしかった。

キスされたのは別にびっくりしただけで嫌とかそういうのじゃなかった。

だけど言えなかったけど
オレは今まで誰ともキスしたことがなかった。

20才まで何も知らずになるべく人と関わりを持たないように生きてきたオレにとって
リオの突然の行動にただ戸惑った。

リオに好きだって言われた時、
オレはどう反応したらいいのかわからなかった。

だけどその日からリオが気になって仕方がない。

見れば見るほどリオは魅力的に見えて
オレは自分がおかしくなったんだと思った。

まともにリオの顔を見られなくなった。

何でこんなにドキドキするのかと思うくらい
オレの心はリオにかき乱された。

リオの幸せを願えば受け入れるワケにはいかないと思ったが
リオの顔を見るたびにオレはリオに惹かれていく。

ファーストキスを思わぬ形でリオに奪われて
オレは頭がどうかしたんだと思った。

好きになんてなるもんか!

リオはオレにキスしてきたクセに
涼しい顔をして飄々としている。

「もう来なくていいよ。

脚も治ってきたしさ、
松葉杖も必要なくなった。」

キスしてきたかと思えば簡単に突き放す。

オレには苦い過去があるから
ちゃんと気持ちを伝えずに亡くなってしまったアイツのことを思うと
リオのことが心配で堪らなかった。

「オレのこと好きなんだろ?」

突然リオにそんな質問を投げかけた。

リオの反応が知りたかった。

「好きだから一緒にいたくない。」

恥ずかしそうにリオは簡単に告白して
簡単に突き放した。

「そっか。わかった。」

リオになんか優しくするもんかと
オレはオレで意地になった。

「とりあえず帰るわ。お大事に。

あんま無理すんな。」

オレとそういう仲になる気はないみたいだ。

リオもきっと怖いんだろう。

男同士でこれ以上深くなったらそれはそれで色々問題があると思ってるんだろう。

別に誰を好きになろうがリオの自由だと思ったが
相手がオレとなればリオは必ず不幸になると思った。

帰ろうとするとリオは後ろからオレに抱きついた。

本当に困った。

「なぁ、わかってよ。
一緒にいたくないって…本心じゃないって。」

わかってるよ、そんなこと。

ずっと好きだって目でオレを追いかけるリオのことが
その時はただ怖かった。
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