ABYSS〜First Love〜
オレはリオの手を振り払った。

リオはその場に崩れ落ちた。

これでいい。

リオを不幸にしたくなかった。

背後でリオの泣く声が聞こえた。

オレはテーブルの上に今まで預かっていた鍵を置いて部屋を出た。

さっきリオに抱きしめられた背中がやけに寂しかった。

「リオどうしてた?」

海の家に戻るとアキラさんがオレに聞いた。

「あー、暇そうでした。

波乗れなくてつまんなそうで…

アイツからサーフィン取ったら何もないっしょ。」

「あとで遊びに行ってやるか。」

アキラさんはリオに特別に優しかった。

中学生の頃から可愛がってると言ってたし
サーフィンもこの人に教わったと聞いた。

そしてこの人はゲイだ。

この前、オウスケさんと喧嘩していて
オレは二人はそういう仲だと悟った。

もしかしたらリオは既にこの人のものになったんじゃないかと疑った。

リオも本当はオレじゃなくても男なら大丈夫なんじゃないかと疑って
そして勝手に嫉妬した。

「あの、リオとそういう関係なんですか?」

頭に来てストレートに聞いてやった。

焦るのかと思ったらアキラさんは笑って言った。

「リオはお前が好きだろ?
知ってるのになぜ聞くんだ?」

心を見透かされてるみたいで腹が立つ。

リオなんて気にしない。

アイツが誰を好きでも
オレ以外の誰と恋に堕ちようがオレには関係ない。

「そう言われても
受け入れるワケないでしょう?

オレはアナタとは違うんで。」

八つ当たりだった。

最低な気分だった。

オレの気持ちがリオにあることを知られたみたいでただ悔しかった。

アキラさんは嫌な顔もせずただ笑っていて
それが更にオレの気持ちを逆撫でした。

「あんまりリオを傷つけるなよ。」

そう言ってアキラさんはリオに逢いに行った。

アイツはまだ泣いてるだろうか?

気になって仕事が手につかなかった。

「ユキナリくん、今日飲みに行かない?」

サチがオレを誘ってきた。

サチと付き合えばリオはオレを諦めるんだろうか?

一瞬そんな想いが頭をよぎったが
これ以上リオを傷つけたくなかった。

アイツの泣き声が
頭から離れなかった。

それでも好きでもどうにもならない。

どうにかなるワケにはいかない。

オレと関わればリオはきっともっと傷つくことになる。

「ねぇ、飲みに行こうよ。」

サチとなら誰にも咎められないだろう。

でもサチのことだって傷つけて良いわけじゃない。

「ゴメン、オレ…サッちゃんのこと何とも思ってないんだ。」

「え?な、何言ってんの?

飲みに行こうって言っただけでしょ?

私付き合ってって言った?

自信過剰もいいとこ!」

サチはプライドが高いからすごく怒ってた。

たしかに告られたわけでも無いのに
断るってアホすぎた。

でもサチの気持ちの整理がつくならそれはそれで良かったと思う。

とにかく今はこれでいいと一人で納得した。

夜、店を閉める頃に仕事で東京に出かけていたオウスケさんが帰ってきた。

「アキラ来てた?」

「はい。今…リオの見舞いに行ってますよ。」

「そっか。」

オウスケさんはアキラさんにヤキモチとか妬かないんだろうか?

リオとの仲を疑ったりしないのだろうか?

オレがそんなことを考えて居たら
オウスケさんと目が合った。

「何?」

「え、いや…」

オレは迷っていた。

アキラさんのことを聞いて良いものだろうか?

「何?どうした?」

でも知りたかった。

この人は多分オレと似てるから。

「アキラさんとリオのこと疑ったりしないんですか?」

オウスケさんはオレをじっと見た。

聞いてはいけないことを聞いたのかもしれないと思った。

「ユキナリ、お前はリオが好きなの?」

「え?」

「妬いてるのはオレじゃなくてお前だろ?」

「なんでそんな風に思うんですか?
違いますよ!リオは男じゃないですか!
変なこと言わないで下さいよ。」

オウスケさんの目は少し怖かった。

「男だろうが女だろうが関係ないだろ?

オレとアキラのこと知ってるんならそんなことオレに言うのは失礼だろ?

お前はもっと冷静で利口なヤツだと思ってた。

余裕ないんだろ?リオをアキラに取られそうで。」

みんなしてオレを責めてる気がした。

「リオのことなんか何とも思ってないですよ!」

オレの顔は真っ赤だったと思う。

まるでリオが好きだって告白したような気分だった。

「好きになったらもう仕方ないんだよ。」

オウスケさんはオレの肩に手を置いてそう言った。

リオに逢いたかった。

逢いたくて堪らなかった。
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