妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。

第10話 予期せぬ依頼人

「まあまあ、怖い顔しないで。可愛い、雪女さん。でも怒り顔もキュートだよ。……そうだ! 俺の嫁にならない?」
「ええぇっ!?」
 な、何言ってるのかしら。
 呆れちゃう。
 かなり唐突。突然すぎたよ。
 なになに、俺の嫁にならないかって〜?
 この鬼はやけに性格がチャラいわね。
 私の想像してた鬼とは違う、軽い、軽すぎる。
 鬼といったら、もぉっと恐ろしくて威厳があって、迫力があるもんじゃないのかな。
「へっ? あんた、何言ってんだっ! 雪華と会って間もない癖に」
 銀星が目をギロリとさせ、鬼を睨んだ。
 目の前の鬼は、般若の面をつけたままで表情はまったく分からない。
 絶対に、私、からかわれてる!

「私、貴方のお嫁さんなんかなりません! わん太、おいで」
 わん太、やけにその鬼に懐いているな〜。
 二つ角の鬼に抱かれたわん太は、心酔したかのようなうっとり顔だ。
 私がわん太を呼ぶと、鬼の腕からするりと抜けて尻尾をふりふり、わん太がこちらに跳ねるように向かって来る。

「はいはい。雪華さま、銀星さま。言うのが遅れましたが、この方依頼人でらっしゃいます」
「「い、依頼人〜?」」
「そっ。妖怪探偵に正式な依頼をしに来たのさ。俺は茨木童子、よろしくな」
 私、茨木童子ってなんか聞いたことある……。
 えーっと、そうだ。
「茨木童子って酒呑童子の仲間だっけ。その茨木童子?」
「ふふふふ。俺を知ってるなら話が早い。そして俺の主《あるじ》の名は鬼の頂点、鬼の中の鬼。泣く子も黙る鬼界のスーパースター酒呑童子様だ」
「酒呑童子に茨木童子……、じゃあ依頼というのはひょうたん絡みなのか?」
「察しが良いね、神狐。銀星くんだっけ?」
 あれ?
 銀星、名前を名乗ったかな?

「びっくりするほど猿芝居が下手ですね、あんた。初対面なフリしてんのは嘘だ」
 ビシュッと銀星が突然右手を払うと、風で作った狐が茨木童子に飛ぶ。
 ――パリンッ。
 茨木童子の般若のお面が真っ二つに割れた。
「ああっ! 生徒会長っ!! 生徒会長だ! って、茨木先輩が茨木童子ってこと〜!?」
 お面が割れて、あらわになった鬼の素顔――。
 整いすぎた端正な顔、類稀なる美形で、彼を見る人を魅了してしまう。
 それは間違いなく茨木先輩だった。
 今はあの時に感じなかった妖艶ささえある。
 これが茨木童子の本性。
 妖力を抑える事を止めたのか、茨木童子の妖気が漂う。
 控えめにいっても確かに最強クラスの妖怪。
 圧迫感がある。
 茨木童子の内側から物凄いパワーを感じて、私は警戒した。
「そうだ、俺が茨木童子だ。雪華さん、また会えたね」
「茨木先輩が鬼だったなんて」
「何が『雪華さんまた会えたね』だ! 僕の大事な雪華に近づくな。わん太を変な術で懐柔したのだろう」
「大したものだね、君は。俺だといつから見破ってた? 香りの種類は変えてたはずなのに。鬼の俺を見ていきなり噛みつこうとしたわん太くんには、仲良くなる術を軽〜くかけたまで」
 あぁ、だからわん太が懐いていたのね。

 茨木童子は威圧的に微笑むと、自分の首にしてるネックレスを引きちぎった。それは途端にどんどん大きく変わり細身の金棒になっていく。茨木童子が片手に金棒を握りしめる。
 茨木童子はニンマリと嘲笑う。

「いつ見破ったか、か。あんたの背格好、いけすかない態度に、雪華を口説く声音。いくらでもヒントはある」

 銀星は茨木童子に向かって構えた。
 臨戦態勢を取っている。

「ちょっとちょっと、銀星! 茨木先輩、止めて。茨木先輩は依頼人なんでしょ」

 うわー、しかし、鬼の茨木童子がうちの学校の生徒会長をやってるだなんて、ある意味『鬼に金棒』すぎる。

「なぁ、オメエら。畑さで喋ってねぇでオラの屋敷に来いべさ。こみいった話になりそうだがや」

 銀星と茨木童子が睨み合いをしてると、今まで放心して黙っていた河童のスイコが屋敷においでって言って、緊迫ムードを変えてくれた。

「さっ、河童屋敷に行こう行こう」
「ちょっ、雪華」

 私たちは河童のスイコの案内についていく。
 私の足元には気づけばいつの間にか、気絶から解けた小河童の大群がいて、わらわらと一緒に歩き出した。

 でもでも、茨木先輩が鬼の茨木童子だったのは驚き。
 やっぱり人間世界には妖怪がこっそり紛れて生活しているものなんだよね。
 うちの中学校にも、妖怪は私と銀星だけじゃなかった。
 それにしても、学校にいてもちっとも鬼の気配に気づかなかったな。
 茨木先輩は妖気を隠すのが上手なんだなぁ。

 さて、それは置いといて。
 私の今の関心は河童のスイコのお屋敷がどんなかな〜ってことに興味津々《きょうみしんしん》なの。

 我ながら切り替え、早っ。

「銀星〜、茨木先輩〜、何二人で止まってコソコソ話してるの。急いで急いで」
「雪華はいつも明るくて前向きだよな。そこがまた良いんだ」
「ぼそっと独り言なんか呟いて。それが本音かい? 銀星くんも、あの調子では雪華さんに振り回されて敵わないのではないのか。――ハッ! いや、むしろ嬉しいとか?」
「……生徒会長、それ以上は黙っててくださいね。からかうのなら、ただじゃ済みませんよ。僕の狐火の炎で火あぶりにしてみせましょうか?」
「ふはははは。やれるものならやってみれば良い。振り回されて喜ぶとは、君はマゾっ気があるようだな。神狐とは面白いものよ。実に人間くさい」
「どっちがだよ。うるさい、チャラ男め。雪華に不用意に近づくな」

 うーん、あの二人、何を話してるんだろう。
 案外、銀星と茨木先輩って、あれでいてもしかして気が合うのかしら?
 私たちと茨木先輩、出会ってからそんなに日が経ってない。
 もう話が尽きないくらいにどこか馬が合ってて、お喋りが止まらないほど仲良くなれる関係って、ちょっとうらやましいなぁ。

 私は、銀星の一番の友達だって思っているからかな。

 変なの。少しだけ私の胸がチクリと痛んだの。
 心の中にちらっとよぎってったものは、『そのうち私は一番じゃなくなる』ってこと。

 男子の茨木先輩に嫉妬してどうする、私。
 いつか銀星の横に並ぶのは、好きになった仲良しの女の子だ。
 その子が銀星の一番になるんだよね。

 ――ううん。今はまだいいや、そんなこと。

 銀星と茨木先輩が仲良くなるのは悪くない。
 そうだ、臆するな。
 ひねくれないもん。
 私も仲間に混ぜてもらおうっと。
 こんな事で、嫉妬なんかしない。
 分かり合って、仲良しになったら良いのだ〜。
< 11 / 31 >

この作品をシェア

pagetop