妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。

第13話 生徒会のお手伝い

 昨日ね、私は岩蔵に銀星と行ったんだけど。
 岩蔵は、昔は鬼の棲家で今は河童のお屋敷がある洞穴のこと。
 そこで茨木先輩の正体が、実は酒呑童子の仲間の茨木童子という鬼だと知って。
 鬼か〜。
 鬼族には妖怪に知り合いの多い私でも初めて会ったけど、茨木先輩の見かけはあんまり怖くない。
 いまだに信じられないけれどね。
 私たちの他にも中学校には妖怪が通っていたんだよ。
 他にもいたりするのかな?
 妖力を隠して姿を变化させ、正体を知られないように。
 きっと私たちみたいに。ひっそり? と、普通の人間のフリをしてたりするんだよね。


 今は、岩蔵探索の次の日の放課後。
 私はどうしてか生徒会室にいるんだ〜。
 しかも、生徒会室には生徒が二人しかいない。
 私と――。

「茨木先輩、どうして生徒会室に私たち二人きりなんですか。それにあんまりくっかないで欲しいんですけど」

 美化掲示委員会という委員会に入ってる私はくじ引きで、生徒会のポスター1枚を貼る仕事をやる羽目になった。
 私の入ってる委員会は、先生からの依頼があれば行事のポスターを貼ったり、掃除の点検や花壇の手入れ、電灯が切れたら交換したりするお仕事をするんだ〜。

 やる羽目になんて言っちゃったけど私、お手伝いは嫌いじゃない。
 いつでも人の役には立ちたいと思ってるよ。
 だから、妖怪探偵を私は銀星とやっているんだもん。
 困ってる人や妖怪の手助けがしたい。
 解決して喜んでくれた時の笑顔が大好きだから。
 とっても嬉しいの。
 人の役に立てるって思うと、私まで元気になれる。
 あったかい気持ち。
 だけど、このポスター貼りには仕掛けられた罠のような下心を感じてる。
 生徒会室に入って分かってしまった。鈍い私にだって分かるような、謎解きが簡単な思惑。

「ハハッ、そうかな。そんなにくっついてないけど? 雪華さん、あんまり警戒しないでよ。傷つくなぁ。俺としてはさ、ひょうたん捜索の進捗《しんちょく》状況も聞きたかったし」
「シンチョク?」
「進み具合のことだよ。盗《ぬす》っ人《と》小河童の手掛かりは見つかった?」
「ん〜、昨日の今日なので。手掛かりはまだありません」
「そっか。まっ、そりゃあ、そうだよな。……なぁ、あれから銀星くんに口説かれなかったかな?」
「口説くって……。銀星とはそんなんじゃないです。私は将来は人間と結婚するのが宿命《さだめ》だし、銀星は神狐、特別な巫女体質の人か神様の許しを得た妖怪しか恋人になれないんです」
 くくっと、茨木先輩は嘲笑《わら》った。
 その顔は岩蔵の洞穴で会った茨木童子そのものだった。
「へぇー、そう。フフフッ」
 茨木先輩は頭の二本角を隠していたはずなのに、私には角がうっすらと、目を凝らせば微かに見える。

 私の横にぴったりとくっついて座る茨木先輩。
 茨木先輩が私をのぞきこんでくる視線にドキッとしちゃう。
 私、ちょっと熱くなってる。
 いけない、いけない。
 頭から湯気が出ちゃう。
 体中からも蒸気がぷしゅーっとか、あり得ない。
 もしも私のそんな姿を、誰かに見られちゃったら大変っ!
 洒落にならない事態になってしまいます。
 私は言い訳が下手だから、説明するのが大変なんだ。
 いつもはそばにいてくれる銀星が、庇って誤魔化してくれたりするけれど。
 今は銀星は私のそばにはいない。
 気をつけなくっちゃ。

「このポスター貼りの仕事、茨木先輩が仕組んだんですか?」
「さあて、何のことかな? 雪華さんとは確かに二人っきりになりたかったけど」
「ポスター1枚って……」
「嘘。そう、俺が仕組んだんだよ。見破るなんて流石だね。雪華さんと二人だけで喋りたかったからさ。くじ引きの箱の中身と人を妖術でちょちょいっと操ったんだよ。銀星くんはさぞかし心配しただろうね。怒ってた?」
「委員会の仕事ですからね。学校の行事の大事なポスターだって担当の先生が説明して。銀星、渋々送り出してくれました」
「銀星くんも来たがったんだ?」
「えぇ、まぁ。……先輩、聞いても良いですか?」
「なに? 何でも聞いて。雪華さんになら何でも包み隠さず話したい。俺のこともっと知って欲しいし」

 私は茨木先輩に視線を向ける。

「茨木先輩は。……どうして人間の学校に通っているんですか?」
「ああ、そんなこと? 楽しいからに決まってるじゃないか。俺はわいわい騒ぐのが好きだ。潜んで生きるなんて性に合わない。それに――」
「それに?」
「実はこっちが本命なんだが、幼馴染みを捜してた」
「幼馴染みを?」
「まだ見つからないんですか? 良かったら妖怪探偵が捜索しますよ?」
「いいや、見つかったよ。――やっとね。この学校に来てやっぱり良かった。正解だったよ」
「そ、そうですか」
 にこ〜っと顔をくしゃくしゃにして笑う茨木先輩は、年下みたいに可愛らしかった。
 さっきの笑い方とは全然違う。

「今みたいに笑う茨木先輩の方が、私は好きですよ」

 私がそういったら、急に茨木先輩が真顔になった。
 んっ? あれれ。
 変な意味も深い意味もなく言っちゃったけど、マズかった? このセリフ。

「君にキス、したくなった」
「ふぇっ!?」

 私は両方の肩をつかまれ、茨木先輩の方に体を向けさせられた。

「ちょっ、ちょっちょっと! 駄目ですよ」

 美鬼――茨木童子の妖術なの?
 私、体が固まって動かなくなっちゃったよ!
 いつ、妖術をかけられたんだろー。

 ダメダメ、まずいよ。茨木先輩の顔が私の顔に迫ってくるぅ。
 生徒会室に、花のような甘ったるい香りがしてる。
 香りはむせ返るほど充満してきていた。
 頭がボーッとしてきちゃう。
 あわゎゎっ。
 わた、私のファーストキスが茨木先輩に奪われちゃうよ。
 どうしようっ!?
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