妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。

第16話 葵ちゃんと恋バナ

 学校から帰ると、いつものように銀星のお家の稲荷神社に向かうことにする。

 わ〜い、もうすぐ夏休み。

 だけどね、その前には期末テストっていうテストがあるんだよ。
 それに加えて宿題は変わらずにあるんだもん。私の頭は沸騰しそう。
 困ってる私を見兼ねて、銀星がみっちりたっぷり勉強を教えてくれるっていうから、良かった〜。
 持つべき者は頭のキレる幼馴染みだよね。ありがたや〜。
 私はトートバッグにあれこれ勉強道具を詰めて支度をして、二階の自分の部屋を出た。

 一階に下りて、キッチンにいたパパとママに声を掛けて行く。
 
「パパー、ママー、銀星んとこに行って来ま〜す!」
「雪華、気をつけるんだぞ」
「雪華、銀星くんに、晩御飯のおすそ分けの肉じゃがとおむすび持って行って。ナナコ(銀星のママ)が銀翔(銀星のパパ)と出掛けてるって言ってたから。なんなら二人で食べても構わないわ。ちょっと遅くなるようなら、ママが後で迎えに行くから。雪華、気をつけてね」

 銀星のパパもママもお出掛けか〜。どんな用事だろ?

「は〜い、気をつけて行って来ます」

 私のお家《うち》は、代々の八百屋さんと横に野菜をメインにしたランチ専門のレストランをやっています。
 八百屋さんは、うちのパパが店主です。
 レストランの方はママと、パパの妹の葵《あおい》ちゃんが切り盛りしているの。

 ドアを出ようとしたところで、後ろから声を掛けられた。

「雪華〜、私も行くぅ」
「葵《あおい》ちゃんも?」

 振り返ると、廊下にニコニコと上機嫌の葵ちゃんが立っていた。
 パパの妹の葵ちゃんは、私のママが雪女だって秘密を知ってる。
 もちろん娘の私が雪女だってことも。
 パパが四神獣の生まれ変わりなのも、葵ちゃんは理解してるんだ。

「今日はレストランの明日の分の仕込みが早く終わったからね。私、一日頑張って働いたから疲れちゃった。ご褒美に神社カフェの特盛抹茶フルーツパルフェを食べたいし。雪華にも奢ってあげる。……それに。稲荷神社の皆に会いに行きたくなっちゃって」
「また、また〜。葵ちゃんが稲荷神社に行きたがってる理由は一つでしょ! すごく会いたい人は一人」
「そ、そんな……、そんな事ないよ。稲荷神社の狛犬ちゃん達にも小鬼ちゃん達にも会いたいもの。そりゃあ、私がなかでも特別会いたいのは一人だけど……」

 葵ちゃんには、大好きな人がいる。

 私が問い詰めると、葵ちゃんは頬を染めて恥ずかしそうに笑った。
 葵ちゃんはショートカットだから、照れて首まで真っ赤になってるのが分かる。
 私や銀星は半妖だけど、実は葵ちゃんが好きな人も半妖です。

 夕方四時少し前のまだまだ明るい田んぼ道を、稲荷神社に向かって私と葵ちゃんはてくてく歩きながら、葵ちゃんの恋バナを聞く。

 ミンミン蝉の鳴き声に混じって、ゲコゲコと蛙の鳴き声も聴こえる。
 下校途中の小中学生や、かけっこしてるのかな、遊んでいる小さな子供達とすれ違う。
 それから私にはチラホラと妖怪やあやかしが見えていて、彼等とも通りすがる。
 草むらや木の影や田んぼのあぜ道や水辺にいる妖怪は、時々私をじっと見ている。だいたいは、害が無い妖怪だよ。
 私が雪女だと分かると、妖怪達はたまにそばに近寄ってくるけれど、今は葵ちゃんが隣りにいるからか、遠巻きに様子を伺っているみたい。

 葵ちゃんの恋バナ(ほとんど惚気《のろけ》)の合間《あいま》に、私は銀星と酒呑童子のひょうたんを探していることと、茨木先輩のことを話した。

「その茨木先輩って鬼なんでしょ? 怖くはないの?」
「う〜ん、あんまり怖くないよ。ちょっと積極的に私をからかってくるのが困るけど」
「雪華をからかってくる?」
「『俺と付き合おう』とか『俺の嫁になれ』とかだったかな」
「ふへぇっ。お、俺の嫁になれぇ!? お兄ちゃんが聞いたら卒倒しちゃうじゃない」
「パパには言っちゃ駄目だからね、葵ちゃん」
「言わない、言えないよー。雪菜さんは目を爛々《らんらん》とさせて喜びそうだけど、娘ラブのお兄ちゃんには絶対に言えないわー。しっかしイマドキの中学生ったら、なんておませなのかしら? 私なんてプロポーズなんていつになるやら。雪華も隅に置けないね。そういや、その茨木童子からのプロポーズ、銀星くんは知ってるの?」
「知ってるけど……」
「銀星くんは怒ったでしょ?」
「うん、まぁ」

 はい、銀星はそれはそれはすごい剣幕で怒ってました。

「銀星くんも雪華命だもんね〜。ライバル登場かぁ、大変だな」
「ライバルって、銀星はそんなんじゃないし。私の幼馴染みだから、茨木先輩に怒ったんだよ」
「その茨木先輩って軽い子なのかしらね。雪華はどっちがタイプなの?」
「タイプ?」
「ねぇ、雪華。どちらかと言えばどっちが好き? 銀星くんと茨木先輩、どっちとデートしたい? 手を繋ぎたい? どちらに胸キュンしちゃう?」
「えっ、えっ、えっと〜」

 私は葵ちゃんから、矢継ぎ早やに質問されて目が回りそうだった。

「……うーん。どっちもないかな」

 銀星とはちっちゃな時から数え切れないほど手を繋いでるけど、ドキドキなんてしたことない。
 茨木先輩と、手を繋ぐぅ?
 なんかあり得ない。

「銀星くん、相変わらず不憫……。可哀想に」
「なに? 葵ちゃん。なんで銀星が不憫なの?」
「さぁ。どうしてでしょう」
「? ……あっ、そういや、おじいちゃんとおばあちゃんは元気かな」

 ついこの間会ったばかりだけど、また会いたくなっちゃう。私はおじいちゃんもおばあちゃんもすごく優しくてね、だぁい好き。

「あの二人? 元気、元気。夏休みは泊まりに行ったら? 雪華が行ったら喜ぶよ」

 小さい頃は私のお家に、おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に住んでたんだ。
 だけど二人は葵ちゃんみたいに、私とママが雪女だってことは知らない。内緒にしてるの。だって、びっくりして倒れちゃうかもしれないもん。

 葵ちゃんが私やパパママの秘密を知ったのは、好きな人が半妖だというやむを得ない事情があったから。特別なんだって。

 うちからちょっと離れた山に、おじいちゃんとおばあちゃんは去年移り住んでいて、ビニールハウスや畑で野菜を育てている。
 おじいちゃんとおばあちゃんは、八百屋さんはパパに任せて、野菜作りに専念したかったんだって。

『大好きな雪華や雪菜さん、それから家族や皆にすこぶる上手い野菜を食べさせたいからなぁ』

 おじいちゃん家は自転車でも頑張れば行ける場所、すぐに会える距離だから、寂しくないよ。

 私と葵ちゃんがお喋りしていたら、あっという間に銀星の家の稲荷神社に着いちゃったね。
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