妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。

第26話 囚われの河童の凪ちゃんを探して

 鬼婆の屋敷に足を踏み入れると、屋内は薄気味悪いほど静まり返り、空気がじめじめとしてた。暗く陰湿で壁も床も朽ち果ててる。
 私達が床を歩くたびに、ギシギシギシギシ鳴るんだよ。
 張られた床の木の板が腐ってるから破れて抜けそうで、私は足を動かすのが怖〜い。
 床が落ちたら、その下はどうなってるんだろ?

「オンボロだね〜。鬼婆はこんなとこに住んでたんだ」
「ボロボロ具合が好きだったんじゃないの。妙に落ち着くとか? いや〜、しかしなんだ。こういう荒んだ場所はいかにも出そうな雰囲気だよな」
「……出るって? な、なな何が?」
「オバケだよ、オバケ。あぁ、雪華は幽霊オバケの類いは苦手だったか、ごめん」
「やめてよ〜、緋勇くん。私、自分が半妖だからって得意なわけじゃないから」
「そうだった、そうだった」
「雪華は真ん中にいなよ」
「うん、銀星ありがとう。そうする」

 銀星が先頭になって、鼻をくんくんさせて凪ちゃんの妖気を感じながら歩く。
 真ん中は、怖いから気を紛らわすためにわん太を両腕で抱えた私。
 一番後ろには緋勇くんがキョロキョロ見渡して警戒しながらついて来てくれる。
 屋敷内の床板にも草がボーボー生えたり、キノコがニョキニョキ生息してる。

「早く凪ちゃんを探して、帰ろ〜」
「頑張れ、妖怪探偵」
「だってぇ、薄気味悪いんだもん」

 私がガタガタ震えそうな体をわん太の温もりで誤魔化し、どうにか勇気を振り絞ってまた一歩足を動かした時だ。
 銀星が鋭く叫んだ。

「雪華っ! 今すぐ目をつぶって」
「えっ――?」

 私は目をつぶれなかった。
 怖いくせに好奇心が勝っちゃったの。あー、私の馬鹿馬鹿。

「――はっ。アレって……」

 廊下の先にはぼんやりと人影が見えていた。
 ゆらりゆらりと揺れてる。

「キャー! 幽霊ー!?」
「大丈夫、雪華。僕が祓ってあげるよ」

 銀星が神職の着物の胸元から、祓い札を出して身構える。
 悪霊や実体の無い幽霊に使うお札だって、銀星が以前《まえ》に言ってた。
 いつもは実体がある妖怪とか黒妖を相手にしてるから、私は実際に祓い札を使ってるとこはほとんど見たことないんだ。
 
「銀星、まだ祓うな。よく見ろ」
「んっ? あの人(?)、呼んでる」

 幽霊は私達を手招きしている。
 こここ、怖くないよ。
 いや、やっぱり怖ーい。

「幽霊が呼んでるの? やだ」
「そんなにおどろおどろしくない幽霊だから、雪華にも大丈夫そうだけど」
「やだやだやだよ〜。おどろおどろしくなくても、充分怖いんですけど」
「鬼婆にやられたのか。幸運にも魂が喰われなかったから幽霊として漂ってるのか」
「ちょっ……。あの幽霊」
「やけにちっちゃい」

 私がイヤイヤ近づくと、姿がわりとはっきり見えてきた。幽霊はすごくちっちゃくて、頭にお皿があって口はくちばしになってる。
 まだ手招きを続けてて、その手には水かきが……。

「小河童! あなた、この間の小河童なの?」

 私が呼び掛けると幽霊はこくんとうなづいたんだ。

「ひょうたんを盗んだのも、君?」

 私の質問のあとに続けざまに銀星が問い掛けると、素直に小河童はまたうなづいた。

『……スイコ、スイコの親分にただ喜んでもらいたかっただけなんだよォォ……』

 か細い声で、小河童の幽霊は話してくれた。
 小河童の幽霊の案内で屋敷の奥に進む。突き当たって小河童の幽霊は壁に溶けるようにふっと消えた。

「きゃあっ! 消えた」
「ふふっ。雪華驚きすぎだよ」
「だって、銀星……」

 銀星に笑われちゃった。
 だって苦手なものは苦手なんだもの。

「雪華、銀星。この壁何か仕掛けがありそうだ」

 ぺたぺた緋勇くんが壁を触る。わん太が床の隙間をふがふが匂って探る。
 私と銀星も、壁や柱をこんこん叩いたりしてみる。
 夢中で私達が仕掛け探しをしていると、突然後ろから聞き慣れた声にドスの聞いたしゃがれた大声がほとんど同時にした。
 
「何やってるの? 君達」
「お前ら、まだこんなとこに居たのか。オイラが手を貸してやろうか? ガッハッハッ」

 私が慌てて振り返れば、そこにいたのは見慣れた茨木先輩。それと横にはこちらは見慣れないでっかい鬼がどんと立ってる。
 茨木先輩は、ニコリと笑い。
 一本角の大きな鬼は、真っ赤で筋肉モリモリな体をして太い腕で重そうな金棒を軽々持ってる。そして真っ赤な顔でガハガハ陽気に笑ってた。
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