妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。
第27話 星熊童子の怪力
「茨木先輩、その隣りにいるのはもしかして」
「そっ。さっきいたよく喋る化け提灯だよ。同族だからって油断するからさ、情けない。だから、身動き取れない化け提灯なんかにさせられちゃうんだ」
「茨木童子、そりゃないぜ。……面目ない。やあ、姫さん。改めまして、オイラが星熊童子だ。この勇ましい赤鬼の姿こそが星熊童子だからな。以後よろしく」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします。でもでも姫さんって……、恥ずかしいなぁ。私の名前は佐藤雪華だよ。雪華って呼んで下さい」
「おうよ。じゃあ、雪女の雪華。茨木童子共々よろしくな。おっしゃ! この壁オイラがひと思いにぶち壊してやる。しゃらくせぇ」
「あっ、待って。そんな乱暴な……」
私が止めるのも聞かずに、星熊童子は金棒をブンッと振り回して屋敷の壁にゴツンと当てた。
その衝撃で風が吹く。
「きゃあっ」
「うわっ」
壁はがらがらと音を立てて一気に崩れちゃった。
瓦礫が舞い、壁の破片が降って落ちてくるから危ないっ。
皆に当たらないように、咄嗟に私と銀星で風を起こして周りを囲うようにバリヤーを張る。
「サンキュー。雪華、銀星」
お礼を言う緋勇くんは特に慌てた様子はないけど、呆れ顔。
私も銀星も呆然としちゃった。
「ちょっと、ちょっとー。星熊童子。いきなり金棒を振り回すなんてだめじゃないですか。怪我したら大変だよ」
「オイラせっかちだかんな。悪《わり》い悪《わり》い」
「雪華さん、まあまあ。コイツはこういう性格の奴なんで許してやって。さあ、進もうか」
砂埃、土煙が落ち着いてきた。
わっ、びっくり。
星熊童子が怪力で壊した壁の向こうには、向こうが見えないぐらい長い長い通路が続いてる。
茨木先輩と星熊童子が合流したら、すごく賑やかになってきたんで、私は怖さもなくなってきた。
だって星熊童子は楽しそうに歌を歌いながら歩いて行く。
イマドキの流行の歌で、驚いた。
星熊童子は化け提灯になりながらも、人間世界の流行《はや》りに敏感とは。
「星熊童子、その歌は?」
「知らないの? 茨木童子。今大注目の天の邪鬼兄弟アイドルの大ヒット曲だぜ。あの鬼婆、アイドル好きだったからな。こんな陰気な屋敷に棲みながら大音量で毎日歌を流すもんだから覚えちまった」
「天の邪鬼兄弟って、天乃プリンスだよね?」
「そーそー。妖怪で人気アイドルやってて、人間達にバレないからすげぇよな」
「ふーん」
「雪華は、もしかして天乃プリンスを好きなの?」
「えっ、私? 私がアイドルに興味ないの、銀星は知ってるじゃない。同じクラスの絵麻ちゃんが大ファンなの」
銀星がほうっと安堵したみたいなため息を吐《つ》く。
変なの〜。
私がもしも天乃プリンスを好きでも、銀星には別にどうでも良くない?
って思うんだけど。
私が銀星とのやり取りで思わず首を傾げてた、その時――。
「うぅ……。うぅ……ん」
「誰かのうめき声がする!」
銀星と私が小走りに駆け出す。
建物がミシミシいってるのがちょっぴり気になったけど、私は声のした方に急ぐ。
「凪ちゃんっ!!」
「雪華」
「凪ちゃん!」
「銀星」
木枠の牢屋になってる中に、ぐったりと疲れ果てた顔の凪ちゃんがいた。
駆け寄ると凪ちゃんは大声で泣いた。
私も泣けてきた。
凪ちゃんと私は会えて嬉しくて、わんわん泣いちゃってた。
お互い手を伸ばし合う。
「ぐすんぐすん。……凪ちゃん、怪我はない? 大丈夫? 今すぐにそこから出してあげるからね」
「ぐすん……。ありがとう。怪我はないよ。二人なら助けに来てくれると信じてた」
座敷牢の扉の木枠の間から、精一杯伸ばされた凪ちゃんの手を私はぎゅっと手を握る。
「んっ、なんか焦げ臭いな」
「確かにきな臭いね。雪華、銀星。これは急いだ方が良いな」
「……火事か。俺達は外に様子を見に行って来よう。来いっ、星熊童子」
「よし来たっ、茨木童子」
「雪華さん、急ぐんだ。君達なら難なく助け出せるだろ? 気をつけてな」
「うっ、うん」
最初に異変に気づいたのは銀星だった。緋勇くんとわん太も牢屋に駆け寄る。
茨木先輩は真剣な眼差しで私を見て励ましてから、星熊童子と外に様子を見に行った。
なんで火事なんか……。
早く凪ちゃんを助け出さなくっちゃ。
急がないと、皆丸焦げになっちゃうよ。
「雪華、早く助け出そう」
「うんっ。でもどうやって助けたら良い?」
「うーん。よしっ、僕と緋勇くんで牢の扉を燃やすよ。火が回らないように、扉だけ燃えたら雪華が雪で鎮火して」
「了解っ。その案でいこう」
「うん、分かった! 凪ちゃん後ろに下がって」
「うん」
まだ涙が乾かない凪ちゃんの鼻声の返事を聞いてから、銀星と緋勇くんの妖気が炎になって放たれる。
「いくよっ!」
「銀星、控えめにな」
銀星と緋勇くんの妖力、メラメラ燃え盛る神狐と朱雀の炎が座敷牢の扉を燃やしていく。
私は雪女の妖力を込めた両手をかざして、出番に備えて構えていた。
「そっ。さっきいたよく喋る化け提灯だよ。同族だからって油断するからさ、情けない。だから、身動き取れない化け提灯なんかにさせられちゃうんだ」
「茨木童子、そりゃないぜ。……面目ない。やあ、姫さん。改めまして、オイラが星熊童子だ。この勇ましい赤鬼の姿こそが星熊童子だからな。以後よろしく」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします。でもでも姫さんって……、恥ずかしいなぁ。私の名前は佐藤雪華だよ。雪華って呼んで下さい」
「おうよ。じゃあ、雪女の雪華。茨木童子共々よろしくな。おっしゃ! この壁オイラがひと思いにぶち壊してやる。しゃらくせぇ」
「あっ、待って。そんな乱暴な……」
私が止めるのも聞かずに、星熊童子は金棒をブンッと振り回して屋敷の壁にゴツンと当てた。
その衝撃で風が吹く。
「きゃあっ」
「うわっ」
壁はがらがらと音を立てて一気に崩れちゃった。
瓦礫が舞い、壁の破片が降って落ちてくるから危ないっ。
皆に当たらないように、咄嗟に私と銀星で風を起こして周りを囲うようにバリヤーを張る。
「サンキュー。雪華、銀星」
お礼を言う緋勇くんは特に慌てた様子はないけど、呆れ顔。
私も銀星も呆然としちゃった。
「ちょっと、ちょっとー。星熊童子。いきなり金棒を振り回すなんてだめじゃないですか。怪我したら大変だよ」
「オイラせっかちだかんな。悪《わり》い悪《わり》い」
「雪華さん、まあまあ。コイツはこういう性格の奴なんで許してやって。さあ、進もうか」
砂埃、土煙が落ち着いてきた。
わっ、びっくり。
星熊童子が怪力で壊した壁の向こうには、向こうが見えないぐらい長い長い通路が続いてる。
茨木先輩と星熊童子が合流したら、すごく賑やかになってきたんで、私は怖さもなくなってきた。
だって星熊童子は楽しそうに歌を歌いながら歩いて行く。
イマドキの流行の歌で、驚いた。
星熊童子は化け提灯になりながらも、人間世界の流行《はや》りに敏感とは。
「星熊童子、その歌は?」
「知らないの? 茨木童子。今大注目の天の邪鬼兄弟アイドルの大ヒット曲だぜ。あの鬼婆、アイドル好きだったからな。こんな陰気な屋敷に棲みながら大音量で毎日歌を流すもんだから覚えちまった」
「天の邪鬼兄弟って、天乃プリンスだよね?」
「そーそー。妖怪で人気アイドルやってて、人間達にバレないからすげぇよな」
「ふーん」
「雪華は、もしかして天乃プリンスを好きなの?」
「えっ、私? 私がアイドルに興味ないの、銀星は知ってるじゃない。同じクラスの絵麻ちゃんが大ファンなの」
銀星がほうっと安堵したみたいなため息を吐《つ》く。
変なの〜。
私がもしも天乃プリンスを好きでも、銀星には別にどうでも良くない?
って思うんだけど。
私が銀星とのやり取りで思わず首を傾げてた、その時――。
「うぅ……。うぅ……ん」
「誰かのうめき声がする!」
銀星と私が小走りに駆け出す。
建物がミシミシいってるのがちょっぴり気になったけど、私は声のした方に急ぐ。
「凪ちゃんっ!!」
「雪華」
「凪ちゃん!」
「銀星」
木枠の牢屋になってる中に、ぐったりと疲れ果てた顔の凪ちゃんがいた。
駆け寄ると凪ちゃんは大声で泣いた。
私も泣けてきた。
凪ちゃんと私は会えて嬉しくて、わんわん泣いちゃってた。
お互い手を伸ばし合う。
「ぐすんぐすん。……凪ちゃん、怪我はない? 大丈夫? 今すぐにそこから出してあげるからね」
「ぐすん……。ありがとう。怪我はないよ。二人なら助けに来てくれると信じてた」
座敷牢の扉の木枠の間から、精一杯伸ばされた凪ちゃんの手を私はぎゅっと手を握る。
「んっ、なんか焦げ臭いな」
「確かにきな臭いね。雪華、銀星。これは急いだ方が良いな」
「……火事か。俺達は外に様子を見に行って来よう。来いっ、星熊童子」
「よし来たっ、茨木童子」
「雪華さん、急ぐんだ。君達なら難なく助け出せるだろ? 気をつけてな」
「うっ、うん」
最初に異変に気づいたのは銀星だった。緋勇くんとわん太も牢屋に駆け寄る。
茨木先輩は真剣な眼差しで私を見て励ましてから、星熊童子と外に様子を見に行った。
なんで火事なんか……。
早く凪ちゃんを助け出さなくっちゃ。
急がないと、皆丸焦げになっちゃうよ。
「雪華、早く助け出そう」
「うんっ。でもどうやって助けたら良い?」
「うーん。よしっ、僕と緋勇くんで牢の扉を燃やすよ。火が回らないように、扉だけ燃えたら雪華が雪で鎮火して」
「了解っ。その案でいこう」
「うん、分かった! 凪ちゃん後ろに下がって」
「うん」
まだ涙が乾かない凪ちゃんの鼻声の返事を聞いてから、銀星と緋勇くんの妖気が炎になって放たれる。
「いくよっ!」
「銀星、控えめにな」
銀星と緋勇くんの妖力、メラメラ燃え盛る神狐と朱雀の炎が座敷牢の扉を燃やしていく。
私は雪女の妖力を込めた両手をかざして、出番に備えて構えていた。