妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。
第2話 幼馴染みの風城銀星
「ちょっと、ちょっと、雪華。誰と話してるかと思ったら」
「ヒャッ」
急に後ろから声がして、私が驚いて振り向くと、立っていたのは幼馴染みの銀星《ぎんせい》だった。
「くんくん」
銀星は炭の体の小鬼をつまみ上げると、匂いを嗅ぎだした。
「銀星、その子嫌がってる」
炭の小鬼は銀星に掴まれ、バタバタと空中で体を動かした。
「あー、まったく。神狐の鼻を侮ってもらっちゃ困るな」
あのね、銀星は私と同じ半妖なんだ。
銀星パパは神に仕える狐で眷属と呼ばれる神狐、銀星ママは人間だけど特別な力を持つ人間なんだよ。
――で、銀星も当然のように強い妖力を持って生まれた半妖の狐なの。
私と一緒。半分妖怪で半分人間なんだよ。
これは学校の友達とか普通の人には言っちゃいけない、私と銀星の出生のヒ・ミ・ツ。
言ったところで、誰も信じないとは思うけれどね。
「雪華には、そりゃそうは見えないよ」
「どうゆうこと?」
「コイツ、神経を操る系の黒妖《こくよう》みたいだから。変に甘ったるい匂い」
黒妖っていうのは、最近出現している人間や妖怪に害を及ぼす妖気を持つ怖い妖怪のこと。
人や妖怪に悪さをしても、なんとも思ってないらしいんだ。
「うそ、だって、そんな気配しないよ?」
「だから、コイツは雪華に催眠術みたいなもんをかけてるんだ。中身は別かもしれません。とくとご覧あれ。禍つもの、離れ消えよ」
銀星がつまんだ炭の小鬼に手のひらをかざすと、ボッと青白い炎が小鬼を包んだ。
「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ」と小鬼の苦しそうな鳴き声がする。
「や、やめてっ!」
私は慌てて、小鬼を助けようとした。
「ほら、雪華見なよ」
炭の小鬼から黒いモヤモヤとした妖気が立ち上り、離れて空に消えた。
私たちが黒妖と呼んでるモノは、実体が煙やもやだったり。なにかに取り憑くし、人の形や妖怪に化けたりもする。
「あ――っ」
「これが正体だ」
炭の小鬼は、手のひらサイズの河童になった。
「か、河童ぁ〜!」
「ちっちゃいねぇ。君、話は出来るのかな?」
銀星は自身の手の上に、小河童を載せると、優しい声音でたずねた。
「あれ? オイラ、どうしたんだろう?」
「っていうか、なんで私の家に棲み憑いてたのよ」
「雪華、怖がらせないようにね。可哀想だろ?」
「んんっ。分かった。小河童さん、うちになんの御用ですか? お家はどこですか?」
「……オイラ、オイラ。分かんないや。帰る家もなにもかも分かんないや」
今にも泣き出しそうな顔の小河童に、私は問い詰める気にはなれなかった。
「とにかく、これは由々しき事態だね。雪華、うちの神社に行こうか。誰かに相談した方が良い」
「そうね。私を騙せる妖力の持ち主が相手じゃ、悔しいけど私たちより格上の妖怪かもしれない」
私、いつの間にかどこかの妖怪の術中にハマっていたみたい。ムカムカしてる。体が熱くなって腹が立ってきた。
「ちょっ……。雪華っ! 水蒸気が出てる。平常心、平常心」
「いけない」
私はスーハーと深呼吸をした。
雪女の私は熱くなってはダメ。あくまでもクールに。
だって、体が溶けちゃうから。
溶けても死にはしないけれど、元に戻るには妖力をたくさん使う。疲れちゃうんだよね。
「そうそう。ちゃんとコントロール出来て偉いよ、雪華」
銀星は片手に小河童、空いた片手で私の頭をポンポンと撫でた。
最近ちょっと銀星にポンポンされるのが、恥ずかしいのはなんでだろう?
変なの。
昔っから、銀星はこうやって褒めてくれたり、慰めてくれるのに。
「ねぇ、雪華」
「なに?」
「黒妖に向かって何話してたの?」
「なんかべらべらと友達みたいに話してた気がする」
「うーん。そっか」
私は銀星の顔がかげったので、胸騒ぎがしていた。
「いつから?」
「『いつから?』そういやいつからだろう」
「どこか一人で行ったの? 雪華は相棒の僕を置いて、一人でどこかに出掛けないように。単独行動するから取り憑かれるんだよ。まったく、危ないなぁ」
「はいはい、ごめん、ごめん。二人は仲間、妖怪探偵のパートナーだもんね」
あとで詳しく説明するけど、私と銀星は妖怪探偵というのをやってます。
そこでなぜか急に、小河童が声を上げて笑った。
「二人は恋人ではないんですね」
「えっ、違うけど。私は誰とも付き合ってないもん」
「僕は恋人でも良いんだけどな」
ボソボソと小さな声で銀星が何か言ってる。
「なんか言った、銀星?」
「あっ、いや」
「雪女に恋人はなし! これは早く親分にお知らせしなくては。喜びますよ〜。親分ー!」
パァンッ……――。
「わっ」
「きゃっ」
突然、小河童の体が光る。
私は目がくらんだ。
視界が戻ると、小河童の姿はなくなっていて。
銀星の顔が悔しそうだった。
「騙された。純情なフリしてあの小河童、誰かの差し金だ」
「誰かのって――?」
「僕にだって分かんないよ。ただイヤな予感がする。……雪華、なんで笑ってるんだよ?」
あちゃ、やだな〜。笑っちゃってたかな?
「ウフフ。だってこれは事件じゃない? 妖怪探偵の出動よ」
「も〜、そんなにウキウキしちゃってさ。雪華、用心してよ。……たしかに妖怪探偵の出番かもね」
銀星は伊達メガネをくいっと指で押し上げた。
これは間違いなくあやかし案件。
「ふっふっふ。妖怪探偵が出動しまっす!」
私はわくわくし始めていた。
銀星にはナイショだよ。不謹慎って怒られちゃうから。
……まっ、バレバレか。えへへ。
「ヒャッ」
急に後ろから声がして、私が驚いて振り向くと、立っていたのは幼馴染みの銀星《ぎんせい》だった。
「くんくん」
銀星は炭の体の小鬼をつまみ上げると、匂いを嗅ぎだした。
「銀星、その子嫌がってる」
炭の小鬼は銀星に掴まれ、バタバタと空中で体を動かした。
「あー、まったく。神狐の鼻を侮ってもらっちゃ困るな」
あのね、銀星は私と同じ半妖なんだ。
銀星パパは神に仕える狐で眷属と呼ばれる神狐、銀星ママは人間だけど特別な力を持つ人間なんだよ。
――で、銀星も当然のように強い妖力を持って生まれた半妖の狐なの。
私と一緒。半分妖怪で半分人間なんだよ。
これは学校の友達とか普通の人には言っちゃいけない、私と銀星の出生のヒ・ミ・ツ。
言ったところで、誰も信じないとは思うけれどね。
「雪華には、そりゃそうは見えないよ」
「どうゆうこと?」
「コイツ、神経を操る系の黒妖《こくよう》みたいだから。変に甘ったるい匂い」
黒妖っていうのは、最近出現している人間や妖怪に害を及ぼす妖気を持つ怖い妖怪のこと。
人や妖怪に悪さをしても、なんとも思ってないらしいんだ。
「うそ、だって、そんな気配しないよ?」
「だから、コイツは雪華に催眠術みたいなもんをかけてるんだ。中身は別かもしれません。とくとご覧あれ。禍つもの、離れ消えよ」
銀星がつまんだ炭の小鬼に手のひらをかざすと、ボッと青白い炎が小鬼を包んだ。
「ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ」と小鬼の苦しそうな鳴き声がする。
「や、やめてっ!」
私は慌てて、小鬼を助けようとした。
「ほら、雪華見なよ」
炭の小鬼から黒いモヤモヤとした妖気が立ち上り、離れて空に消えた。
私たちが黒妖と呼んでるモノは、実体が煙やもやだったり。なにかに取り憑くし、人の形や妖怪に化けたりもする。
「あ――っ」
「これが正体だ」
炭の小鬼は、手のひらサイズの河童になった。
「か、河童ぁ〜!」
「ちっちゃいねぇ。君、話は出来るのかな?」
銀星は自身の手の上に、小河童を載せると、優しい声音でたずねた。
「あれ? オイラ、どうしたんだろう?」
「っていうか、なんで私の家に棲み憑いてたのよ」
「雪華、怖がらせないようにね。可哀想だろ?」
「んんっ。分かった。小河童さん、うちになんの御用ですか? お家はどこですか?」
「……オイラ、オイラ。分かんないや。帰る家もなにもかも分かんないや」
今にも泣き出しそうな顔の小河童に、私は問い詰める気にはなれなかった。
「とにかく、これは由々しき事態だね。雪華、うちの神社に行こうか。誰かに相談した方が良い」
「そうね。私を騙せる妖力の持ち主が相手じゃ、悔しいけど私たちより格上の妖怪かもしれない」
私、いつの間にかどこかの妖怪の術中にハマっていたみたい。ムカムカしてる。体が熱くなって腹が立ってきた。
「ちょっ……。雪華っ! 水蒸気が出てる。平常心、平常心」
「いけない」
私はスーハーと深呼吸をした。
雪女の私は熱くなってはダメ。あくまでもクールに。
だって、体が溶けちゃうから。
溶けても死にはしないけれど、元に戻るには妖力をたくさん使う。疲れちゃうんだよね。
「そうそう。ちゃんとコントロール出来て偉いよ、雪華」
銀星は片手に小河童、空いた片手で私の頭をポンポンと撫でた。
最近ちょっと銀星にポンポンされるのが、恥ずかしいのはなんでだろう?
変なの。
昔っから、銀星はこうやって褒めてくれたり、慰めてくれるのに。
「ねぇ、雪華」
「なに?」
「黒妖に向かって何話してたの?」
「なんかべらべらと友達みたいに話してた気がする」
「うーん。そっか」
私は銀星の顔がかげったので、胸騒ぎがしていた。
「いつから?」
「『いつから?』そういやいつからだろう」
「どこか一人で行ったの? 雪華は相棒の僕を置いて、一人でどこかに出掛けないように。単独行動するから取り憑かれるんだよ。まったく、危ないなぁ」
「はいはい、ごめん、ごめん。二人は仲間、妖怪探偵のパートナーだもんね」
あとで詳しく説明するけど、私と銀星は妖怪探偵というのをやってます。
そこでなぜか急に、小河童が声を上げて笑った。
「二人は恋人ではないんですね」
「えっ、違うけど。私は誰とも付き合ってないもん」
「僕は恋人でも良いんだけどな」
ボソボソと小さな声で銀星が何か言ってる。
「なんか言った、銀星?」
「あっ、いや」
「雪女に恋人はなし! これは早く親分にお知らせしなくては。喜びますよ〜。親分ー!」
パァンッ……――。
「わっ」
「きゃっ」
突然、小河童の体が光る。
私は目がくらんだ。
視界が戻ると、小河童の姿はなくなっていて。
銀星の顔が悔しそうだった。
「騙された。純情なフリしてあの小河童、誰かの差し金だ」
「誰かのって――?」
「僕にだって分かんないよ。ただイヤな予感がする。……雪華、なんで笑ってるんだよ?」
あちゃ、やだな〜。笑っちゃってたかな?
「ウフフ。だってこれは事件じゃない? 妖怪探偵の出動よ」
「も〜、そんなにウキウキしちゃってさ。雪華、用心してよ。……たしかに妖怪探偵の出番かもね」
銀星は伊達メガネをくいっと指で押し上げた。
これは間違いなくあやかし案件。
「ふっふっふ。妖怪探偵が出動しまっす!」
私はわくわくし始めていた。
銀星にはナイショだよ。不謹慎って怒られちゃうから。
……まっ、バレバレか。えへへ。