妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。
第30話 降れ降れ雨、降れ降れ雪
「親分〜」
「河三郎、無事で良かっただ」
河童の水虎に小河童の河三郎が飛びつくと、その小さな体を水虎は抱きしめ、頬ずりした。
じっくり二人には感動の再会を味わってて欲しかったけど、目の前には燃え上がる鬼婆の屋敷、――そうもいかない。
生け垣に刺さっていた化け提灯に、銀星が扇をかざして扇ぐ。すると次々と足のある妖怪唐傘に变化《へんげ》して蜘蛛の子が散るように逃げて行った。
「水虎、急いで」
「分かっただ。今行くだよ」
水虎は岩蔵の洞窟で会った時は頼りなさそうだったけど、今は頼もしく見える。
私と凪ちゃんと水虎、それに小河童軍団が一列にずらっと並ぶ。
「雨雲を呼べ。大地を冷やせ。燃え盛る火を消すために」
「雪よ舞え降れ、みぞれよ降れ。とにかく降れ降れ」
「水虎必殺技、雨水川流れの雨乞い歌〜♪」
「降れ降れ雨々、降れ降れ雪々。頑張れ水虎親ぶ〜ん」
皆で力を合わせる。
私は雪を降らせ、凪ちゃんと水虎と小河童が河童の雨を降らせ始めた。
ザーザービュービューと辺りに音が響いて空気を震わす。
私、ちょっと疲れてきちゃった。
全力で走ったり、妖力をフルに爆発させて。
なんかね、足元がフラフラだわ。
いけない、情けないなぁ。
私はもっと自分がタフのつもりだったんだけどな。
ふら〜っとよろけちゃう。
「雪華っ! 大丈夫?」
「雪華さんっ」
銀星と茨木先輩がほぼ同時にふらりとよろけた私の体を両側から支えてくれた。
「あっ……。ありがとう、銀星、茨木先輩。私、頑張らなくっちゃ」
「雪華」
「雪華さん」
貧血みたいな感じ。
妖力を使い果たしてく。普段小出しにしているからかな。
これは鍛えないと。明日から特訓しよう。
あー、だめだめ、集中集中。
「もー! そこの火事、いい加減消えてよねっ」
だって、私。
だって私はそういや、テスト勉強を全然してなかったよ〜。
早く帰らなきゃならない。
やばい。……早くって、もう充分に遅いんでは?
ねー。今、いったい何時!?
真夏ではあるけど、すっかり真っ暗。とっぷり日が暮れてる。
焦る〜。もうっ、火事消えて。
「急げ〜! ゴホゴホ」
大声出したら、屋敷の木材を燃やして出てる火事の煙を吸っちゃった。
咳が出ちゃう。
凪ちゃんが気遣うように視線を向ける。
「雪華。大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
もう私の中の妖気はすっからかんって感じだよ。
お腹減った〜。
もう一息、えいやっ!
「よっし! やった。火が消えた」
火が消えたぁ。残らず消えて良かったぁ。
鬼婆の屋敷は隅から隅まで黒焦げになった。
やっと火が消えたんだ〜。
私はふにゃ〜って体の力が抜けていった。
✧✧✧
私は妖怪探偵事務所にいる。
あの『小河童、鬼婆とんでも事件』(勝手に私が名前をつけちゃった)は無事解決。
あれから数日が経った。
ひょうたんは茨木先輩に渡せたし、凪ちゃんは助け出せた。
万々歳だよね。
銀星と作った事件報告書に詳細を書き込み【完了】の赤い文字のハンコをバンッと押す。
「事件解決っと。なんか清々しいね。この達成感がたまらないよ」
「八束じいちゃんも泣いて喜んでたな」
「うんうん、良かったね」
私が視線を上げ、気配がした気がしてなんとなく窓を見る。
「きゃあっ。ちょっと、ちょっと。ねえねえ、銀星〜。その、えっと。唐傘達がそこの窓から大勢覗いてるんだけど? どうゆうこと。なんで稲荷神社にいるの?」
「ああ、化け提灯を唐傘に变化《し》て助けたじゃない? 彼らが元に戻りたくないっていうんだ。あと僕らに恩返ししたいらしいよ」
「私は何もしてないもん。銀星が一人で恩返しされてね」
「僕だけ? 僕だけなんてやだよ。雪華ってば、唐傘ってどんな恩返しをするつもりだと思う? 学校の置き傘になったり、普通に傘として使ってくれっていうんだ。僕、足が持ち手の傘だなんてやだよ」
「私だってやだよ〜。やけにたくましいし、すね毛が……」
妖怪唐傘の見た目はどの唐傘もほぼ一緒。下駄を履いたおじさんみたいな足を、私は手に持つ気がしない。
中学生女子が持つ傘にしては、柄もしぶすぎだもん。
唐傘達は当分の間、稲荷神社に住むことにしたらしいよ。
「雪華〜、銀星〜」
「あっ。凪ちゃん、いらっしゃい」
「この間はありがとう。八束じいちゃん筆頭に河童一族からの御礼の品です」
凪ちゃんがやって来て、お礼にと山ほどのきゅうりをくれた。
ニコニコ笑顔の凪ちゃんのその隣りに立つのはなんと……。
「私達、これから浜辺でデートだから。じゃあね」
「またなだがや。雪華ちゃん、銀星」
まさか、凪ちゃんと水虎が恋人として付き合うことになるなんて。
「あの二人、出会ったばかりなのにラブラブだね。凪ちゃんも水虎もデレデレの幸せ顔だった。腕を組んだりして仲良いよね」
「……」
「んっ? どうしたの銀星?」
「僕達も腕を組んでみる?」
「ふへぇっ? なんで私と銀星が腕なんか組むの?」
残念そうにうなだれる銀星。
変なの。
コンコンと妖怪探偵事務所のドアがノックされる。
「今度は誰だろう?」
「雪華さま〜、銀星さま〜。依頼ですよ、妖怪探偵のお二人に新たな依頼ですよ」
狛犬のわん太が『特別な絵馬手紙』を器用に背中に乗せて運んできた。
「さあて、また事件ですねぇ。敏腕妖狐探偵銀星くん」
「ふふっ。助手の雪華くん、二人でまた事件解決といきますか」
「あ〜! ちょっと銀星。私は助手じゃないからね」
「はいはい、鈍感雪女探偵さん」
「なにが鈍感よ? 失礼ね」
妖かしがいるところに事件あり。
私、雪女の雪華と神狐の銀星の妖怪探偵事務所には、依頼が絶えることはないのであ〜る。
「河三郎、無事で良かっただ」
河童の水虎に小河童の河三郎が飛びつくと、その小さな体を水虎は抱きしめ、頬ずりした。
じっくり二人には感動の再会を味わってて欲しかったけど、目の前には燃え上がる鬼婆の屋敷、――そうもいかない。
生け垣に刺さっていた化け提灯に、銀星が扇をかざして扇ぐ。すると次々と足のある妖怪唐傘に变化《へんげ》して蜘蛛の子が散るように逃げて行った。
「水虎、急いで」
「分かっただ。今行くだよ」
水虎は岩蔵の洞窟で会った時は頼りなさそうだったけど、今は頼もしく見える。
私と凪ちゃんと水虎、それに小河童軍団が一列にずらっと並ぶ。
「雨雲を呼べ。大地を冷やせ。燃え盛る火を消すために」
「雪よ舞え降れ、みぞれよ降れ。とにかく降れ降れ」
「水虎必殺技、雨水川流れの雨乞い歌〜♪」
「降れ降れ雨々、降れ降れ雪々。頑張れ水虎親ぶ〜ん」
皆で力を合わせる。
私は雪を降らせ、凪ちゃんと水虎と小河童が河童の雨を降らせ始めた。
ザーザービュービューと辺りに音が響いて空気を震わす。
私、ちょっと疲れてきちゃった。
全力で走ったり、妖力をフルに爆発させて。
なんかね、足元がフラフラだわ。
いけない、情けないなぁ。
私はもっと自分がタフのつもりだったんだけどな。
ふら〜っとよろけちゃう。
「雪華っ! 大丈夫?」
「雪華さんっ」
銀星と茨木先輩がほぼ同時にふらりとよろけた私の体を両側から支えてくれた。
「あっ……。ありがとう、銀星、茨木先輩。私、頑張らなくっちゃ」
「雪華」
「雪華さん」
貧血みたいな感じ。
妖力を使い果たしてく。普段小出しにしているからかな。
これは鍛えないと。明日から特訓しよう。
あー、だめだめ、集中集中。
「もー! そこの火事、いい加減消えてよねっ」
だって、私。
だって私はそういや、テスト勉強を全然してなかったよ〜。
早く帰らなきゃならない。
やばい。……早くって、もう充分に遅いんでは?
ねー。今、いったい何時!?
真夏ではあるけど、すっかり真っ暗。とっぷり日が暮れてる。
焦る〜。もうっ、火事消えて。
「急げ〜! ゴホゴホ」
大声出したら、屋敷の木材を燃やして出てる火事の煙を吸っちゃった。
咳が出ちゃう。
凪ちゃんが気遣うように視線を向ける。
「雪華。大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
もう私の中の妖気はすっからかんって感じだよ。
お腹減った〜。
もう一息、えいやっ!
「よっし! やった。火が消えた」
火が消えたぁ。残らず消えて良かったぁ。
鬼婆の屋敷は隅から隅まで黒焦げになった。
やっと火が消えたんだ〜。
私はふにゃ〜って体の力が抜けていった。
✧✧✧
私は妖怪探偵事務所にいる。
あの『小河童、鬼婆とんでも事件』(勝手に私が名前をつけちゃった)は無事解決。
あれから数日が経った。
ひょうたんは茨木先輩に渡せたし、凪ちゃんは助け出せた。
万々歳だよね。
銀星と作った事件報告書に詳細を書き込み【完了】の赤い文字のハンコをバンッと押す。
「事件解決っと。なんか清々しいね。この達成感がたまらないよ」
「八束じいちゃんも泣いて喜んでたな」
「うんうん、良かったね」
私が視線を上げ、気配がした気がしてなんとなく窓を見る。
「きゃあっ。ちょっと、ちょっと。ねえねえ、銀星〜。その、えっと。唐傘達がそこの窓から大勢覗いてるんだけど? どうゆうこと。なんで稲荷神社にいるの?」
「ああ、化け提灯を唐傘に变化《し》て助けたじゃない? 彼らが元に戻りたくないっていうんだ。あと僕らに恩返ししたいらしいよ」
「私は何もしてないもん。銀星が一人で恩返しされてね」
「僕だけ? 僕だけなんてやだよ。雪華ってば、唐傘ってどんな恩返しをするつもりだと思う? 学校の置き傘になったり、普通に傘として使ってくれっていうんだ。僕、足が持ち手の傘だなんてやだよ」
「私だってやだよ〜。やけにたくましいし、すね毛が……」
妖怪唐傘の見た目はどの唐傘もほぼ一緒。下駄を履いたおじさんみたいな足を、私は手に持つ気がしない。
中学生女子が持つ傘にしては、柄もしぶすぎだもん。
唐傘達は当分の間、稲荷神社に住むことにしたらしいよ。
「雪華〜、銀星〜」
「あっ。凪ちゃん、いらっしゃい」
「この間はありがとう。八束じいちゃん筆頭に河童一族からの御礼の品です」
凪ちゃんがやって来て、お礼にと山ほどのきゅうりをくれた。
ニコニコ笑顔の凪ちゃんのその隣りに立つのはなんと……。
「私達、これから浜辺でデートだから。じゃあね」
「またなだがや。雪華ちゃん、銀星」
まさか、凪ちゃんと水虎が恋人として付き合うことになるなんて。
「あの二人、出会ったばかりなのにラブラブだね。凪ちゃんも水虎もデレデレの幸せ顔だった。腕を組んだりして仲良いよね」
「……」
「んっ? どうしたの銀星?」
「僕達も腕を組んでみる?」
「ふへぇっ? なんで私と銀星が腕なんか組むの?」
残念そうにうなだれる銀星。
変なの。
コンコンと妖怪探偵事務所のドアがノックされる。
「今度は誰だろう?」
「雪華さま〜、銀星さま〜。依頼ですよ、妖怪探偵のお二人に新たな依頼ですよ」
狛犬のわん太が『特別な絵馬手紙』を器用に背中に乗せて運んできた。
「さあて、また事件ですねぇ。敏腕妖狐探偵銀星くん」
「ふふっ。助手の雪華くん、二人でまた事件解決といきますか」
「あ〜! ちょっと銀星。私は助手じゃないからね」
「はいはい、鈍感雪女探偵さん」
「なにが鈍感よ? 失礼ね」
妖かしがいるところに事件あり。
私、雪女の雪華と神狐の銀星の妖怪探偵事務所には、依頼が絶えることはないのであ〜る。
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