妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。
第6話 岩蔵の鬼の棲家
放課後、私と銀星は海の洞穴「岩蔵《いわくら》」と呼ばれる、鬼の棲家に向かうために海辺にやって来た。
私がゴツゴツとした岩に足を取られてよろけそうになると、まだ怒っててあまり喋らない銀星がムッとした顔のまま、支えて助けてくれる。
「あ、ありがとう」
「……別に」
んっ、もうっ!
銀星はずぅ――っと怒ってる。
生徒会長の茨木先輩に迫られて、彼女にならない? とか一目惚れとか告白された私。
なにがなんだか私にだって分かんないんだからね。
「銀星ったら、ねぇ、いつまでも怒ってないでよ」
「僕は怒ってない」
「やっぱり怒ってるぅ」
銀星は明らかに不機嫌で怒ってるし、拗ねぎみだ。
私が今までに親しい男子は、銀星ぐらいだもの。
私たちは誰より仲良しで一番近くにいるって思ってて。たぶん、きっとお互いにそうなんだ。
でも、急に自分じゃない異性と親しくしてたら、戸惑ったり寂しくなるよね。
私も銀星もいつか誰かと恋に落ちて結婚なんてしたら、今みたいな距離感じゃいられないもの。
離れるのは寂しい。
ずっと銀星とは仲良しの友達でいたいな。
「……そりゃ怒るよ。雪華にあんなベタベタくっついちゃってさ。生徒会長も腹立たしいけど、雪華だって無防備にもほどがあるよ」
「ごめん。でもね、あの。ぎ、銀星には関係ないじゃない」
「関係ないだってぇ? 僕は雪華が心配なだけなんだ。それに。なぁ、雪華。あの人、どこか変じゃなかった?」
「変? どこが? まぁ、自分のイケメンさが分かってるのか、ちょっと自信満々のキザな感じだったけど」
銀星は歩みを止めて、伊達眼鏡をくいっと押し上げた。それからうーんと唸り、顎に手を当ててる。
私も立ち止まる。
茨木先輩が変? そりゃほとんど面識のない私を突然口説いたりして、変わってると言えば変わってる人かも。
雲がどんよりとしてきてる。
雨が降らないうちに、岩蔵に辿り着いて調査しちゃわないと。
海岸沿いの崖にいるから、波があまり高くなっては帰りが危ないよね。
そこまで険しくはないけれど、ここからは大きな岩を登っていかないといけない。
「雪華が生徒会長といた時、学校の廊下に僕たち以外の妖気が微かにした気がするんだ。それにあの人、嗅いだこともない香りをさせてた」
「嗅いだこともない香り? 私には分からなかったけど」
「雪華は生徒会長に夢中で気づかなかったんじゃないの?」
「うぅぅ、銀星のイジワルっ。そういう言い方ひどいよ」
「ごめん、雪華。……僕が意地悪だったね」
銀星がしゅんっとなったので、私の心には急に申し訳ない気持ちが湧き上がってくるなぁ。
銀星の今は隠れてる神狐の獣耳が、垂れているように見えるようだよ。
錯覚だけど。
――香りか〜。
どんな香りなのかな?
「……あの香り。どこか引っかかるんだ」
「黒妖の匂いとは違うのよね?」
「違う、ね。花の香りとも違う甘さを伴っていて、でもピリッと辛い感じもしてた。弾けた胡椒粒みたいかな」
私と銀星は再び岩場を歩き始める。
周りをキョロキョロしても、誰もいない。
私たちの他に人影はなく……。
それなら――。
「ねぇ、銀星。氷で階段でも作っちゃう? 私の妖力ならパパッとあそこまで階段を作れるよ」
私は頭上に見えて来た岩蔵の洞穴の入り口を指差すと、銀星はそれは「名案だね」とは言ってくれたから、私はパァッと明るい気分になった。
「じゃあ、さっそく」
私はさて妖力を出そうと、気合いを入れるために手首に着けてたシュシュで長い髪を束ねてみたよ。
ポニーテールになったら、やる気アップって感じだ!
「なんか言った? 銀星の声がちっちゃくて聞こえないんだけど」
「わわっ、なんでもない。雪華ストップ! 妖力を出さないで」
「銀星、さっき名案だって言ったのに〜」
「あのね、ある意味名案だとは思うけれども。絶対に目撃者がいないと断言できる場合にのみ、雪華の妖力を使うのは有効だよ。いっけん見当たらなくても、どこで誰かが僕らを見張っているか分からない。あと、それこそ偶然に出くわした人間に見られて、雪華と僕が妖怪だってバレてしまうかも分からないじゃないか」
「うぅ〜っ、ごもっともです」
今度は私がシュンとなると、銀星が頭をぽんぽんして優しく撫でてくれる。……くすぐったい。
最近銀星が私に触れると、胸のあたりがムズムズするのは、なんなんだろう?
「ごめん、叱ってばかりで。僕だってほんとは妖狐の姿になって雪華を背中に乗せて、あそこまで行けたらなとは思った」
「でしょ? でしょ〜? せっかく妖力があるんだもん」
「妖力を使えば、たしかに速いし楽だよ? そう思ったけど。心によぎった不安は無視できないんだ」
「……うぅ。そうだよね、分かった。雪華、承知しましたっ。銀星の勘の鋭さは侮れないもの」
銀星の顔にパッと明るさと薄く赤みが散るように浮かんだ。
私に褒められたからか、嬉しそうにしてる銀星にホッとした。
茨木先輩のことで怒ってた銀星はもういない。
普段通りの仲良しの雰囲気に戻ってる。うんうん、良かったよ。
その後はえいやっと岩を上がっていき、私と銀星は岩蔵の入り口に辿り着いた。
洞穴の奥から、ヒョョオオォ〜と不気味な音を立てながら生温く湿った風が吹いてくる。
「着いたね、銀星」
「あぁ、うん。雪華、油断は禁物だからね」
「うん、分かってるよ。妖気を感じるもの」
「それに土地の持つものなのかな。霊気も感じるね」
私、ちょっと緊張してきちゃった。
もしかしたら、本物の鬼がいるかもよ?
雪華、人生初の鬼族とのご対面。
私がいくら雪女だからって、どんな相手もオッケーなわけないから!
鬼にはみんな怖れて震え上がるんだもん。
でもでも、この暗い洞穴の奥に進むっきゃない。
今さら後には退《ひ》けないよ。
鬼さぁん、いますか?
にわかにぶるぶるっと震えがきた。
ふふふ、ううん。こんなのへっちゃらよ!
武者震いってやつですから。
鬼さん……。
い、いるのかな〜。
私がゴツゴツとした岩に足を取られてよろけそうになると、まだ怒っててあまり喋らない銀星がムッとした顔のまま、支えて助けてくれる。
「あ、ありがとう」
「……別に」
んっ、もうっ!
銀星はずぅ――っと怒ってる。
生徒会長の茨木先輩に迫られて、彼女にならない? とか一目惚れとか告白された私。
なにがなんだか私にだって分かんないんだからね。
「銀星ったら、ねぇ、いつまでも怒ってないでよ」
「僕は怒ってない」
「やっぱり怒ってるぅ」
銀星は明らかに不機嫌で怒ってるし、拗ねぎみだ。
私が今までに親しい男子は、銀星ぐらいだもの。
私たちは誰より仲良しで一番近くにいるって思ってて。たぶん、きっとお互いにそうなんだ。
でも、急に自分じゃない異性と親しくしてたら、戸惑ったり寂しくなるよね。
私も銀星もいつか誰かと恋に落ちて結婚なんてしたら、今みたいな距離感じゃいられないもの。
離れるのは寂しい。
ずっと銀星とは仲良しの友達でいたいな。
「……そりゃ怒るよ。雪華にあんなベタベタくっついちゃってさ。生徒会長も腹立たしいけど、雪華だって無防備にもほどがあるよ」
「ごめん。でもね、あの。ぎ、銀星には関係ないじゃない」
「関係ないだってぇ? 僕は雪華が心配なだけなんだ。それに。なぁ、雪華。あの人、どこか変じゃなかった?」
「変? どこが? まぁ、自分のイケメンさが分かってるのか、ちょっと自信満々のキザな感じだったけど」
銀星は歩みを止めて、伊達眼鏡をくいっと押し上げた。それからうーんと唸り、顎に手を当ててる。
私も立ち止まる。
茨木先輩が変? そりゃほとんど面識のない私を突然口説いたりして、変わってると言えば変わってる人かも。
雲がどんよりとしてきてる。
雨が降らないうちに、岩蔵に辿り着いて調査しちゃわないと。
海岸沿いの崖にいるから、波があまり高くなっては帰りが危ないよね。
そこまで険しくはないけれど、ここからは大きな岩を登っていかないといけない。
「雪華が生徒会長といた時、学校の廊下に僕たち以外の妖気が微かにした気がするんだ。それにあの人、嗅いだこともない香りをさせてた」
「嗅いだこともない香り? 私には分からなかったけど」
「雪華は生徒会長に夢中で気づかなかったんじゃないの?」
「うぅぅ、銀星のイジワルっ。そういう言い方ひどいよ」
「ごめん、雪華。……僕が意地悪だったね」
銀星がしゅんっとなったので、私の心には急に申し訳ない気持ちが湧き上がってくるなぁ。
銀星の今は隠れてる神狐の獣耳が、垂れているように見えるようだよ。
錯覚だけど。
――香りか〜。
どんな香りなのかな?
「……あの香り。どこか引っかかるんだ」
「黒妖の匂いとは違うのよね?」
「違う、ね。花の香りとも違う甘さを伴っていて、でもピリッと辛い感じもしてた。弾けた胡椒粒みたいかな」
私と銀星は再び岩場を歩き始める。
周りをキョロキョロしても、誰もいない。
私たちの他に人影はなく……。
それなら――。
「ねぇ、銀星。氷で階段でも作っちゃう? 私の妖力ならパパッとあそこまで階段を作れるよ」
私は頭上に見えて来た岩蔵の洞穴の入り口を指差すと、銀星はそれは「名案だね」とは言ってくれたから、私はパァッと明るい気分になった。
「じゃあ、さっそく」
私はさて妖力を出そうと、気合いを入れるために手首に着けてたシュシュで長い髪を束ねてみたよ。
ポニーテールになったら、やる気アップって感じだ!
「なんか言った? 銀星の声がちっちゃくて聞こえないんだけど」
「わわっ、なんでもない。雪華ストップ! 妖力を出さないで」
「銀星、さっき名案だって言ったのに〜」
「あのね、ある意味名案だとは思うけれども。絶対に目撃者がいないと断言できる場合にのみ、雪華の妖力を使うのは有効だよ。いっけん見当たらなくても、どこで誰かが僕らを見張っているか分からない。あと、それこそ偶然に出くわした人間に見られて、雪華と僕が妖怪だってバレてしまうかも分からないじゃないか」
「うぅ〜っ、ごもっともです」
今度は私がシュンとなると、銀星が頭をぽんぽんして優しく撫でてくれる。……くすぐったい。
最近銀星が私に触れると、胸のあたりがムズムズするのは、なんなんだろう?
「ごめん、叱ってばかりで。僕だってほんとは妖狐の姿になって雪華を背中に乗せて、あそこまで行けたらなとは思った」
「でしょ? でしょ〜? せっかく妖力があるんだもん」
「妖力を使えば、たしかに速いし楽だよ? そう思ったけど。心によぎった不安は無視できないんだ」
「……うぅ。そうだよね、分かった。雪華、承知しましたっ。銀星の勘の鋭さは侮れないもの」
銀星の顔にパッと明るさと薄く赤みが散るように浮かんだ。
私に褒められたからか、嬉しそうにしてる銀星にホッとした。
茨木先輩のことで怒ってた銀星はもういない。
普段通りの仲良しの雰囲気に戻ってる。うんうん、良かったよ。
その後はえいやっと岩を上がっていき、私と銀星は岩蔵の入り口に辿り着いた。
洞穴の奥から、ヒョョオオォ〜と不気味な音を立てながら生温く湿った風が吹いてくる。
「着いたね、銀星」
「あぁ、うん。雪華、油断は禁物だからね」
「うん、分かってるよ。妖気を感じるもの」
「それに土地の持つものなのかな。霊気も感じるね」
私、ちょっと緊張してきちゃった。
もしかしたら、本物の鬼がいるかもよ?
雪華、人生初の鬼族とのご対面。
私がいくら雪女だからって、どんな相手もオッケーなわけないから!
鬼にはみんな怖れて震え上がるんだもん。
でもでも、この暗い洞穴の奥に進むっきゃない。
今さら後には退《ひ》けないよ。
鬼さぁん、いますか?
にわかにぶるぶるっと震えがきた。
ふふふ、ううん。こんなのへっちゃらよ!
武者震いってやつですから。
鬼さん……。
い、いるのかな〜。