妖怪探偵☆雪女の雪華が参る!! 「俺の嫁になれ」と美鬼の茨木童子に迫られちゃって、私そんなの困ります! ――の巻。
第7話 小河童のきゅうり畑にて
鬼が住むという岩蔵の洞穴に足を踏み入れた私と銀星。
ドキドキ……。
人の気配はまったくしない。
銀星が右手の平から狐火を出すと真っ暗だった洞穴がぼんやりと青白く光って、一、二メートル先が見えるようになった。
銀星がすすんで先に歩いて、私は後ろからついて歩く。私はちょっと心もとなくて銀星の制服の裾を掴んでみた。
こ、怖くなんかないよ。
ただ、暗いと足元も見えないから危ないもん。だから先に銀星に行ってもらうだけだよ。
……でもほんとはちょっと、勝手にぷるぷるガタガタと震えてきそうな私の体。
うーっ、情けない。
「銀星……、怖くないの?」
「怖くないよ。ふふっ。雪華は怖いの?」
「大丈夫。私は大丈夫だけど、わん太にも来てもらえば良かったかな~」
急に銀星が立ち止まり、銀星の背中に私のほっぺがふにっとあたる。
銀星は私を振り返ると、しーっと口元に人差し指を立てて黙るようにジェスチャーをした。
「どうしたの?」
「なんかいる」
じっと目を凝らすと、暗がりに慣れた目がとらえたのは、岩の地面にうず高く積まれたたくさんのきゅうり!
それから、きゅうりが整然と実った……畑?
こんなとこに、きゅうり畑がある。
ずっと洞窟の奥まで続いてるんだろうか。
「んっ? あそこ、小河童がいる」
よくよく見れば、この間の小河童と似ている河童が何匹かちょこちょこ動き回り、農作業をしているようだった。
あれは、ただのきゅうりじゃないよね。
太陽の光が届かないこんな暗い洞穴で、夏の野菜のきゅうりが育つのはおかしい。
誰かの妖力で育ってるきゅうりか、はたまた人間の作るきゅうりとは違う品種だと思うなぁ。
私と銀星は小河童たちに気づかれないようにそっと大きな岩陰に隠れた。
こんな時に不謹慎なのに、他のことに気が向いて私は銀星をまじまじと眺めた。それは横にぴたっと体を寄せ合い密着した銀星の頭が、私より高くなってること。
そういや、いつからだろう。
私の方が背が高かったはず。
追い越されてることに気づいて、私の心が戸惑う。
悔しい……のかな?
分からない。
それから銀星、前より声も低くなったような。
だんだん、可愛いだけじゃない銀星になっていくんだね、うんうん。
私ったら、親戚のお姉さん気分なのかも。銀星が離れていくみたいで。知らない人になっていっちゃうように思えて。私、寂しい……?
「雪華、小河童たちが何か話してる」
「どれどれ」
私と銀星は目を閉じ、耳を澄ませた。半妖の私たちは普通の人間より、五感が発達していたりする。
その能力はある程度、調整可能なの。生まれた赤ちゃんが言葉を話せるようになるのと同じように、徐々に慣れて出来るようになったんだと思う。
『酒呑童子のひょうたんを盗んだ愚か者がいるそうな』
『怖ろしや、げに怖ろしや』
『スイコ親分は知ってるのか?』
『分かんない。スイコ親分はどこ行った』
『ソイツはさ、そういや、スイコ親分に相応しい嫁を見つけてきたらしい』
『ダレそれ』
『雪女だ、特別な雪女』
『ああ、雪女の雪華か。雪華はだめだ、そばに神狐や神獣がいるのさ』
『拐ってこいよ』
『いやだ、消されたくない』
『雪華は特別だろ』
『嫁様を連れてくりゃあ、スイコ親分が喜ぶ』
『お前が行け』
『やだね、やだやだ』
うわぁ。
どう聞いたって、その雪女の雪華って私のことじゃない!
小河童の話に出てる神狐は銀星だよね?
神獣は私のパパのことに違いない。
わぁっ、私って有名人なんだ!
――あっ。銀星が怒ってる。
声には出さないけれど、じっとして眉間にシワを寄せて、握った拳が小刻みに揺れている。
私と銀星は小河童に気を取られていた。
その時。
「オラのきゅうり畑に何かヨウカ?」
「きゃあっ!!」
「――っ!」
水かきの付いた手が、私と銀星の肩をがっしりと掴んでいる。
後ろを振り返ると、私たちより遥かに背が高く大きな河童が立っていた。
筋骨隆々のたくましさだ。
河童特有の皿頭に、口にはくちばしをつけたプロレスラーみたい。
ニヤリと笑う。
その河童の笑顔に私は一瞬背筋がヒヤリとした。
背後の気配に気づかないぐらいに、小河童の会話に前のめりになっていたこと、私はすぐに後悔してた。
だって、だって。
大きな河童が、意地悪く高らかに笑い出しているから。
ドキドキ……。
人の気配はまったくしない。
銀星が右手の平から狐火を出すと真っ暗だった洞穴がぼんやりと青白く光って、一、二メートル先が見えるようになった。
銀星がすすんで先に歩いて、私は後ろからついて歩く。私はちょっと心もとなくて銀星の制服の裾を掴んでみた。
こ、怖くなんかないよ。
ただ、暗いと足元も見えないから危ないもん。だから先に銀星に行ってもらうだけだよ。
……でもほんとはちょっと、勝手にぷるぷるガタガタと震えてきそうな私の体。
うーっ、情けない。
「銀星……、怖くないの?」
「怖くないよ。ふふっ。雪華は怖いの?」
「大丈夫。私は大丈夫だけど、わん太にも来てもらえば良かったかな~」
急に銀星が立ち止まり、銀星の背中に私のほっぺがふにっとあたる。
銀星は私を振り返ると、しーっと口元に人差し指を立てて黙るようにジェスチャーをした。
「どうしたの?」
「なんかいる」
じっと目を凝らすと、暗がりに慣れた目がとらえたのは、岩の地面にうず高く積まれたたくさんのきゅうり!
それから、きゅうりが整然と実った……畑?
こんなとこに、きゅうり畑がある。
ずっと洞窟の奥まで続いてるんだろうか。
「んっ? あそこ、小河童がいる」
よくよく見れば、この間の小河童と似ている河童が何匹かちょこちょこ動き回り、農作業をしているようだった。
あれは、ただのきゅうりじゃないよね。
太陽の光が届かないこんな暗い洞穴で、夏の野菜のきゅうりが育つのはおかしい。
誰かの妖力で育ってるきゅうりか、はたまた人間の作るきゅうりとは違う品種だと思うなぁ。
私と銀星は小河童たちに気づかれないようにそっと大きな岩陰に隠れた。
こんな時に不謹慎なのに、他のことに気が向いて私は銀星をまじまじと眺めた。それは横にぴたっと体を寄せ合い密着した銀星の頭が、私より高くなってること。
そういや、いつからだろう。
私の方が背が高かったはず。
追い越されてることに気づいて、私の心が戸惑う。
悔しい……のかな?
分からない。
それから銀星、前より声も低くなったような。
だんだん、可愛いだけじゃない銀星になっていくんだね、うんうん。
私ったら、親戚のお姉さん気分なのかも。銀星が離れていくみたいで。知らない人になっていっちゃうように思えて。私、寂しい……?
「雪華、小河童たちが何か話してる」
「どれどれ」
私と銀星は目を閉じ、耳を澄ませた。半妖の私たちは普通の人間より、五感が発達していたりする。
その能力はある程度、調整可能なの。生まれた赤ちゃんが言葉を話せるようになるのと同じように、徐々に慣れて出来るようになったんだと思う。
『酒呑童子のひょうたんを盗んだ愚か者がいるそうな』
『怖ろしや、げに怖ろしや』
『スイコ親分は知ってるのか?』
『分かんない。スイコ親分はどこ行った』
『ソイツはさ、そういや、スイコ親分に相応しい嫁を見つけてきたらしい』
『ダレそれ』
『雪女だ、特別な雪女』
『ああ、雪女の雪華か。雪華はだめだ、そばに神狐や神獣がいるのさ』
『拐ってこいよ』
『いやだ、消されたくない』
『雪華は特別だろ』
『嫁様を連れてくりゃあ、スイコ親分が喜ぶ』
『お前が行け』
『やだね、やだやだ』
うわぁ。
どう聞いたって、その雪女の雪華って私のことじゃない!
小河童の話に出てる神狐は銀星だよね?
神獣は私のパパのことに違いない。
わぁっ、私って有名人なんだ!
――あっ。銀星が怒ってる。
声には出さないけれど、じっとして眉間にシワを寄せて、握った拳が小刻みに揺れている。
私と銀星は小河童に気を取られていた。
その時。
「オラのきゅうり畑に何かヨウカ?」
「きゃあっ!!」
「――っ!」
水かきの付いた手が、私と銀星の肩をがっしりと掴んでいる。
後ろを振り返ると、私たちより遥かに背が高く大きな河童が立っていた。
筋骨隆々のたくましさだ。
河童特有の皿頭に、口にはくちばしをつけたプロレスラーみたい。
ニヤリと笑う。
その河童の笑顔に私は一瞬背筋がヒヤリとした。
背後の気配に気づかないぐらいに、小河童の会話に前のめりになっていたこと、私はすぐに後悔してた。
だって、だって。
大きな河童が、意地悪く高らかに笑い出しているから。